・それぞれのアプローチが持つ時代背景を考える
・時代背景から必要とされる理論の特徴を考え、アプローチを整理する。
問題101 次のうち、ソーシャルワークにおける機能的アプローチに関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 クライエントが被っている差別や抑圧に対抗するため、既存の制度や政策を批判し、これらの変革を目指す。
2 クライエントとのコミュニケーションを通じ、クライエントのパーソナリティの変容と環境との機能不全の改善を目指す。
3 クライエントのニーズを機関の機能との関係で明確化し、援助過程の中でクライエントの社会的機能の向上を目指す。
4 クライエントの望ましい行動を増加させ、好ましくない行動を減少させることを目指す。
5 クライエントの問題の解決へのイメージに焦点を当て、問題が解決した状態を実現することにより、クライエントの社会的機能の向上を目指す。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
機能的アプローチって言い方は、モノの本では機能主義アプローチと言ったり、機能主義的アプローチと言ったり、まぁ、いろいろ。どれも同じです。私は機能主義アプローチって言い方に慣れてるので、「機能主義アプローチ」で、とりあえずこの問題の解説は統一しますね。
じゃあ、この機能主義アプローチって何ですか、と問う前に。
ソーシャルワークのアプローチ云々はいつごろの、どういう文脈で出てきたかってことが大事だから、そっちから理解しましょうか。いつごろのアプローチですか?
ソーシャルワークの最低ラインの歴史は、問題98の解説で何となくやったのですけど、覚えてますか。あの最低ラインのどのあたりになります?
1910年代 基礎確立期
〇リッチモンド=個人と社会、パーソナリティの発達、治療モデル
1920年代 戦間期
ミルフォード会議→ソーシャルワークの「ジェネリック」推し
1930年代 恐慌期
診断主義(フロイト流)VS機能主義(ランク流)
↓延々と戦後まで続く
1960年代 変革期
〇パールマン=問題解決アプローチ、ワーカビリティ
〇ホリス=心理社会的アプローチ、状況の中の人
〇バートレット=ソーシャルワークの共通基盤、価値・知識・介入方法
1980年代 統合期
〇ジャーメイン=生態学的アプローチ、生活モデル
診断主義アプローチは、1920年代ごろにその萌芽は現れていたんです。なぜなら、1920年代ってアメリカは第一次世界大戦に勝って、かつ、ここからアメリカがイギリスを抜いて事実上の世界一の国って感じになって、ものすごい好景気に沸くんです。そんな好景気に、いろんなヨーロッパ文化が入って、アメリカ流に発展していく、そんな土壌が、1920年代の戦間期(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)のアメリカにはあったんです。
そんな雰囲気のなかで、フロイト流の精神分析がヨーロッパから入ってきたんですが。それがソーシャルワークに結び付く。というのも、リッチモンドがソーシャルワークの定義として「パーソナリティの発達」うんぬんなんてことを言ってたわけですよ。覚えてますか?問題98の解説でもやりましたよ。
選択肢1 ×
1 クライエントが被っている差別や抑圧に対抗するため、既存の制度や政策を批判し、これらの変革を目指す。
「差別や抑圧に対抗」なんて表現を見ただけで、「あっ、1960年代!」って思えるぐらいになってほしいところです。なぜなら、今のソーシャルワークの教科書、特にアメリカ中心の流れで作られているソーシャルワークの教科書(もちろん、日本のソーシャルワークの教科書もそんなアメリカ中心の見方にモロに影響を受けてます)は、今のソーシャルワークの基本的な見方・考え方は1960年代の発想で作られたんだって、そういう描き方をします。もちろん、ソーシャルワークそのものはリッチモンドに始まるっていうのは譲れないのですが、ソーシャルワークの治療モデル的な彼女の考え方は今では否定されています。つまり、ソーシャルワークの大きな理念、それを支える、社会と個人を同時に両方を眼差すってことは変わらないのですが、その眼差し方とでもいいましょうか、ソーシャルワーカーとしての態度とでもいいましょうか、そこは1960年代以後変わったんだって描き方をするのです。そのキーとなる人が、パールマン、ホリス、バートレットですが、じゃあなぜ変わったのかと言われれば、1960年代前後の時代から「差別や抑圧に対抗」するような見方考え方が市民から沸き上がったからです。特にアメリカでは1960年代には公民権運動含め大きな運動がたくさん生じました。そんな時代背景を経て、アメリカで沸き起こった今のソーシャルワークと具体的につながる運動として、例えば障害分野の自立生活運動(IL運動)なんかがあるわけです。
じゃあなぜ、1960年代にそんな運動が沸き上がったのか・・・・、などと「なぜなぜ」を繰り返しながら丁寧に考えていくことは私は好きなのですが、とりあえず、ここでは選択肢1の解説なのでこれぐらいにして。
解説書の類では、これは「ソーシャルアクション」のことだと書いてあります。まぁ、そう見ることもできるでしょうね。または、「アドボカシー」なんて言うこともできるでしょうね。「差別や抑圧に対抗」する動きを何と呼ぶかなんて、いろいろそりゃあります。ただ、ここで言えるのは、例えば、ソーシャルアクションやアドボカシーは、2000年前後に出てきた新しい概念ではなく、1960年代の社会運動の時代からあった、たくさんの意味が積み重ねられたものなんだ、ってことぐらいは知っておいてほしいと思います。
で、機能主義アプローチは、1930年代から出てきたってことは確認済みですから、×ですね。
選択肢2 ×
2 クライエントとのコミュニケーションを通じ、クライエントのパーソナリティの変容と環境との機能不全の改善を目指す。
そんな1960年代の時代背景や、そんなノリを踏まえて出てきたアプローチやその理論ととして、私はパールマンの「問題解決アプローチ」と、ホリスの「心理社会的アプローチ」、バートレットの「ソーシャルワークの共通基盤」の三つは必ず覚えるように伝えています。
この選択肢を敢えていうなら、そのなかの一人のホリスですね。まぁ、ホリスと分からなくても、機能主義アプローチではないなと分かれば十分です。(といっても、まだ機能主義アプローチの正解の選択肢にたどり着いていないので、機能主義アプローチがどんなものかを説明していないのですが・・・。苦笑)
ホリスは「状況の中の人」「心理社会的アプローチ」なんてキーワードで絶対に覚えておかなければいけませんが、この観点から面接をとても重視するんです。「状況の中の人」を言い換えれば、状況とは「環境」であり、人の中を流れる一貫した何かを「パーソナリティ」と呼ぶのであれば、ソーシャルワークというものに期待してやってくる「人」とは、パーソナリティと環境との関係に不具合が生じている(=機能不全を起こしている)と見るわけです。それを、丁寧な面接を通して改善をはかる、というのが彼女の「心理社会的アプローチ」の、ざっくりした解説になります。
選択肢3 〇(もしくは〇に近い△でもOK)
3 クライエントのニーズを機関の機能との関係で明確化し、援助過程の中でクライエントの社会的機能の向上を目指す。
これに即〇をつけた人も多いと思います。機能主義アプローチを詳しく知らなくても、選択肢の中に「機能」というキーワードまで入っているのですから。
ただ、このブログの趣旨は、「正解さえ導けられればいい」ではなく、「国家試験でソーシャルワークに入門」するということです。この選択肢に問題作成者が〇をつけさせているということは、国家試験は、この一文で機能主義アプローチを理解してほしい、と言っているのですから、この一文をしゃぶりつくしてみましょうか。
この一文が「クライエントのニーズを」から始まっていることにちょっとこだわってましょうか。実は、選択肢1から5の文章で、それぞれ何を対象にしているかが違うってことに気づいたでしょうか?対象という言い方だと分かりにくければ、何に焦点を当てて、ひきつけて、考えてみようとしているか、ということです。
クライエントが被っている差別や抑圧←1960年代の社会運動
選択肢2
クライエントのパーソナリティと環境←1960年代のホリス「状況の中の人」
選択肢3
クライエントのニーズ←1930年代の機能主義アプローチ
選択肢4
クライエントの行動←1970年代(=アプローチの個別化の時代)の行動変容アプロ―チ
選択肢5
クライエントのもつイメージ←1990年代(アプローチの応用の時代)の解決志向アプローチ
何を対象に扱っているか、それだけでソーシャルワークの時代まで見えるように、それぞれの選択肢は丁寧に作られているんです。クライエントのニーズとは、クライエントのパーソナリティではありません。クライエントのパーソナリティなら、そう書きます。もちろんこの両者は密接につながっていますが、わざわざ「クライエントのニーズ」と書いているのですから、パーソナリティと分けなければ、機能主義アプローチは成り立たないのです。それは、なぜですか?
「時間を区切って、やる」からです。だから何?と思う人もいるかもしれませんね。機能主義アプローチも、敵を知らなければ何が何やらよくわかりません。敵は1920年代に流行り出した「診断主義アプローチ」です。
・ソーシャルワーカーがクライエントの過去に基づいて、パーソナリティを診断。
・「診断」に基づいて、ソーシャルワーカー主導でクライエントのパーソナリティを変えていく。
→ただし、疾患と異なり、パーソナリティはそうそう簡単に変わらないので、長期化するとともに、診断者であるソーシャルワーカーとの関係が絶対的な主従関係になりがち。
・ソーシャルワーカーがクライエントの現在に基づいて、クライエントのニーズを理解。
・「ニーズ」に基づいて、機関を使って、時間を限定し、ニーズ達成を目指す。
→ただし、ニーズを抱える人には複数のニーズが絡み合ってることが多いため、機関が1つのニーズを場当たり的に解決するだけで、根本解決に至りにくい。
リッチモンド以前のプレイヤー:①慈善団体
①慈善団体
行為(=慈善的行為)そのものが目的であり、その背後に宗教観や博愛主義
→市民と、宗教観や博愛主義を共有している限り、目的そのものを明確化する必要はないリッチモンド以後のプレイヤー:②専門職③機関
②専門職
行為(=ソーシャルワーク)そのものが目的ではあるが、その対象となる市民が多様な価値観を持つ(※それゆえ、市民に信頼されない限り、行為が意味をもたない)
→ソーシャルワークという行為の意味や意義を、市民との関係の中で常に明示的に示し続けなければならない
③機関
上位の存在がまずあり、上位の存在がすでに明確な目的を持っている
→期間はその目的を達成するために上位の存在によって組織されたもの
→機関の行為(=上位の存在に与えられた役割=「機能」)は上位の存在の指示に限定される
ここまで整理したうえで、機能主義アプローチは1930年代にアメリカという国家が行ったニューディール政策にフィットして、診断主義アプローチへの対抗軸となった、そんな背景も含めて、選択肢3の文章を説明してみましょう。
そもそも自由主義国家アメリカは、ソーシャルワークなんてものは、慈善団体か専門職に任せるべきで、国家が介入すべきものではないという発想をアメリカはしてきました。しかし、1930年代の自国発である世界恐慌は、もう国家としてソーシャルワークを公的にやらなければ、下手すれば市民がロシアを真似て革命を起こしかねない。世界恐慌は、ロシア革命から10数年後、つまり革命という実際に起こりえる可能性としてあった時代に生じた、国家存亡の危機なのです。
とはいえ、国家が市民に「こういう生き方をしなさい」なんて形で指導的に関わっては、自由主義ではなくなります。自由主義を前提にすることでアメリカは世界一の国になったのですから、そこは譲れないのです。そもそも国家が市民に指導的に関わるその仕組みとしては、社会主義共産主義陣営のほうが秀でているのですから。
すると、アメリカとしては世界恐慌を乗り越えるという大きな目標を掲げ、それを乗り越えるまでの期間限定で、ソーシャルワークを公的にやる組織を作る必要があります。それが「機関」です。そんな機関は、アメリカという国(=上位の存在)から、「世界恐慌を乗り越えるまでの期間限定で、ソーシャルワークをアメリカの名の下にやりなさい」という役割を与えられます。この役割のことが「機能」です。
小難しく言っていますが、システム的な言葉ではなく、今の制度上の言葉で言い換えるならば、国から地方自治体(=行政)が社会福祉という役割を与えられ、地方自治体が期間限定で行政サービスとして社会福祉をやるってことです。
「生きづらさ」を変えて「生きやすくする」なんていうと、抽象度が高い分、ゴールも不明確ゆえ、どうしても長期になってしまいます。ただ、一方で、「生きづらさ」って、下手にサービスに対応するようなニーズにして理解してもらうんじゃなく、中朝的ではあれ、自分が抱える「生きづらさ」そのものを語りたいし理解してほしいって思うわけじゃないですか。それをソーシャルワーカーに語れて、そして丁寧に聞いてもらえれば聞いてもらえるほど、関係性は逆に強くなります。そんな強い関係をベースにしながら長期的に関わって、クライエントの生きやすいあり方へと変えていこうとするのが、診断主義アプローチであり、選択肢2のホリスなんかは、診断主義の影響が強いとは言えますよねぇ。
ただ、ソーシャルワークをサービスとして見ると、診断主義アプローチみたいな考え方は、ソーシャルワーカーの想いとか技量に左右され過ぎるわけです。
ソーシャルワークをサービスとして考えると、サービスを誰がやるかによってあまりにも違い過ぎるってことは望ましくないわけです。
すると、制度としてあるサービス(=機関が提供する機能)を使ってもらいながら、クライエントには自分のニーズを自分で理解し、自分で整理しつつ、本人が社会で生きていくってこと(=社会が市民に与える役割=社会的機能)をうまくやっていけるようしていこうって、そういう見方になっていくわけです。これが機能主義的アプローチです。
私の見立てでは、ニューディール政策という、公が行政サービスとしてソーシャルワークをやるにあたって、診断主義アプローチでは行政サービスとしては乗りにくく、行政サービスとしてソーシャルワークをやるにあたって乗りやすい理論が求められる中で、出てきた理論かなっていう感じですかねぇ。そう考えると、1930年代に機能主義アプローチが流行り、診断主義アプローチとがちがちやりあうって背景がわかりやすいじゃないですかね。どうでしょうか。
選択肢4 ×
これは行動変容アプローチの説明ですね。
「望ましい行動を増価させ、好ましくない行動を減少させる」ことで具体的に行動を変えようとするこのアプローチは、1960年代という時代の転換期を経て、抽象的に過ぎたソーシャルワークへの反発もあった中で、1970年代以後一気にアプローチとして花ひらいた、そんなアプローチです。
国家試験でよく問われるのが、このアプローチの前提となる理論であり、それが学習理論です。そして学習理論の核となる考え方が「オペラント条件付け」であり、「望ましい行動を増価させ、好ましくない行動を減少させる」ってのはオペラント条件付けの考え方そのものと言ってもいいものです。
このあたりは、共通科目の2科目目にあたる「心理学理論心理的支援」でしっかり学んでほしいところです。
選択肢5 ×
「問題の解決へのイメージに焦点を当て」、「問題が解決した状態を実現する」というこの文章を見て、「けっこうハイブリッドな理論だな」って思ったならば、いい感じですかね。
ホリスの例えである「状況の中の人」で言うならば、「人」が持つイメージを使いながら、「状況」を具体的に変えていくことを目指す、って言ってるんです。これ、アプローチの中でも、80年代から90年代ぐらいに出てきた、解決志向アプローチってやつですね。
これらアプローチについてはまた機会があれば、いっしょに考えていきましょう。
正解 3