・教科書に載っていない知識が出た場合の、五肢択一における正解の導き方を知る
・精神保健福祉法による権力と、その権力の制限の仕方について学ぶ
問題61 「精神保健福祉法」に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 医療保護入院者を入院させている精神科病院の管理者は、退院後生活環境相談員を選任しなければならない。
2 精神障害者の定義に、知的障害を有する者は含まれない。
3 精神医療審査会は、都道府県の社会福祉協議会に設置するものとされている。
4 精神保健指定医の指定は、1年の精神科診療経験が要件とされている。
5 精神障害者保健福祉手帳の障害等級は、6級までとされている。
(注) 「精神保健福祉法」とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
精神保健福祉士の専門科目かと思うような問題です。でも、これが社会福祉士との共通科目で出ているということは、この程度は社会福祉士の知識でも正解を導けて欲しい、と問題作成者は思っているのでしょう。
そして、私もそう思います。これぐらいの問題で「難問」だの「社会福祉士では解けない」だの言ってしまっちゃーおしまいですよ。
暗記知識で処理ではなく、知識を総動員して論理的思考で正解を導きたいところです。
選択肢1 〇に近い△
このあたりの知識については、精神保健福祉士の専門科目の教科書にはあります。ただ、社会福祉士との共通科目である「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の教科書には一切載っていないものもあります。すると、(精神保健福祉士の教科書で知っている人は除き)教科書の載っていないのだから、△で落とし込んで、他の選択肢で勝負するしかありません。
ただ、精神保健福祉の歴史の最低限は押さえておきたいところで、それ踏まえて△でも〇に近いか、×に近いか、それぐらいの方向付けぐらいはできればいいなと思います。
1950年成立の精神衛生法制下で公的監置(=精神病院への監置)を行ってきましたが、その反省(=宇都宮病院事件等を背景に)から、1987年に精神保健法→1995年に精神保健福祉法、そしてその改正などを行ってきました。
それらを踏まえて、2000年以後、精神障害者の地域移行を理念として強く打ち出し、さらに、具体的に動き出し、それに見合う制度を作っている、今はそういう段階であることぐらいは知っているでしょう。
であるならば、ただの△ではなく、〇に近い△ぐらいにはしておきたいところです。
選択肢2 ×
これは知っておきたい知識ですね。
「精神障害者とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」(精神保健福祉法 第5条)
では、精神疾患とは何ですか?精神医学という自然科学が対象としてきた現象のことです。一方で、「知的障害者」という用語は、あくまで知的障害者福祉施策上の行政用語です。精神医学の用語ではありません。では、精神医学では行政用語で「知的障害者」とされる人に見られるような現象を対象化してきたのでしょうか?してきたのです。それが精神医学上の「精神遅滞」というものになります。
選択肢3 ×に近い△
「精神医療審査会」は、社会福祉士と精神保健福祉士共通の教科書では、ほとんどの教科書で、ちょろっと出てくる程度ですかね。
でも、どんな会なのかは、問題文や選択肢を全部眺めると想像がつくんです。
この問題のタイトルが「精神保健福祉法」ですよ。さらに選択肢1には「医療保護入院」なんてワードもあるし、選択肢4には「精神保健指定医」ですよ。こんな文脈設定を問題全体でやってるんです。わかりますか。
これらのワードを踏まえ、精神保健福祉法下で、こんな「審査会」なるものを、行政とは別にわざわざ設けてでも、「審査」したいものって何ですか?
もちろん、強制入院としての「医療保護入院」や「措置入院」制度です。これらが、法の趣旨を踏まえ、かつ法の制度どおりに適正に行われているか、もしくはその趣旨を時代に合わせどう解釈し変えていくか、そんなことを「審査」していく、そんな機関が、行政(=措置権者)とは別に必要だから設けられているわけでしょう。
そういう「審査」会を、行政とは別に作るといっても「都道府県の社会福祉協議会に設置」なんてことはありえません。
なぜなら、社会福祉協議会は「民間」だからです。「民間」は、それぞれ民間の目的があって、その目的を達成するために組織をつくってる。それが民間。その目的は、必ずしも精神保健福祉法に沿っているものかどうかわからないでしょう。
かつ、この「審査」会なるものが「精神保健福祉法」という措置的な法律に根拠付けられているのです。ということは、この会は強い権限を持つのです。それを民間になんか任せられません。
じゃあ、行政でもなく、民間でもないなら、どこに任せますか?
作るんです。行政でもない、民間でもない、そういう「機関」を作るってことになります。そういう機関を「第三者機関」なんていうことぐらいは知っているでしょう。
ですから、「弁護士である法律家委員、精神保健福祉士である有識者委員、精神保健指定医である医療委員らの合議体により実施」なんて、教科書等には精神医療審査会について解説してありますが、そんなことまで知らなくても、社会福祉協議会が民間と知っていさえすれば、この選択肢は×ってわかるのです。
選択肢4 ×に近い△
精神保健指定医の指定の要件なんて、社会福祉士と精神保健福祉士共通の教科書では、ほとんどで載っていないでしょうね。(もちろん、精神保健福祉士の専門科目の教科書には載っていますが。)
だからといって、この設問は難問かというとそうではありません。これもまた選択肢3同様、知識としては知らなくても、×に近い△ぐらいはつけられます。
じゃあこの選択肢は悪問か、というとそういう話ではないです。内容的に、つまり問われていること自体はソーシャルワークにとって大事なことだと思うからです。
この選択肢で何が問われているか?
「精神保健指定医」は、医療保護入院や措置入院といった強制入院の判断をする権限を国家から認められた医師です。ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、市民を強制入院させられるような権力を精神保健指定医がもっているのではない、ということ。
あくまで市民を強制入院させられる権力を持つのは国家権力なのです。ただし、そのような権力に対して、恣意的な乱用がされないよう、条件づけが沢山なされているものなのです。
例えば、どういう時どういう条件ならば、強制入院させることが許されるのか、法などで細かく細かく規定されています。ただし、それは医学のルールではありません。国家権力の側の三権分立による拘束なのです。
だとすると、医師経験(=「医学」という、「国家権力」とは別の見方の経験)だけでは、その強制入院を決められるような権限を与えちゃダメなのです。
必ず強制入院が許される、国家権力が定めた細かい条件をしっかり学んでもらわなきゃいけません。そうでなきゃ、いくら精神科医だとしても、強制入院を判断するような、そんな権限は与えちゃいけないのです。
だから、医師経験だけでは×だし、まして、医師経験+研修みたいな体にするにしても、医師経験が1年ぐらいで、あと研修でOKはちょっとありえない。せめて3年経験とかそれぐらいやってもらって、さらに研修受けてもらって、とか、指定医になるにはそれぐらい厳しい条件を課したうえで、恣意的に強制入院がなされないようするのです。
ということで、これは多くの人が知らないでしょうから△ですが、×に近い△ですかね。
選択肢5 ×
これは絶対に覚えてないとダメです。即×にしなきゃいけません。
障害者手帳の等級なんてマニアックと思う人がいるかもしれないけど、マニアックじゃありません。ソーシャルワークという観点からしたら覚えなきゃダメです。
なぜなら、精神障害者保健福祉手帳を、身体障害者手帳のように1級から6級あると思っていると、精神障碍者保健福祉手帳3級って言ったら、「そこそこ重いかな」って思うわけじゃないですか。6級まである中での3級だから、です。でも、精神障害者保健福祉手帳は1級から3級まで。だから、3級って最も軽いわけですよ。
ケースを理解するうえで、しっかり覚えていなければ手帳の等級による誤解が生じるでしょう。だから、障害者手帳の等級についてはソーシャルワーカーとして覚えなければなりません。
〇身体障害者手帳:1級(重い)から6級(軽い)
(※別表には、7級もあるが7級単独では手帳取得できず。)
〇療育手帳:A区分(重い)/B区分(軽い)の2区分。
→ただし通知によるため、都道府県ごと、区分はそれぞれ独自にあるような状況
〇精神障害者保健福祉手帳:1級(重い)から3級(軽い)
正解 1