・事例問題を確実に正解に導くプロセスを知る
・重度知的障害者を地域が欲する、そんな地域福祉の理念を知る
問題32 事例を読んで、U障害者支援施設のA相談員(社会福祉士)が立てた、利用者の地域移行に向けたプランに関する次の記述のうち、地域福祉の理念・原則に基づき、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
重度の知的障害があるBさん(40歳、女性)は、特別支援学校高等部を卒業後、実家から遠く離れたU障害者支援施設に入所して生活を続けてきた。Bさんは言葉でのコミュニケーションは困難であるが、地域で近隣の住民がボランティアとして主催する音楽活動に時折参加した際には、明るい表情で音楽を聴く様子が見られた。Bさんには兄弟姉妹がなく、両親は既に亡くなっている。
1 自己決定の尊重の観点から、Bさん自身から地域移行の希望が出てくるのを待つプランを立てた。
2 社会的包摂の観点から、BさんがU障害者支援施設近くの共同生活援助(グループホーム)に移り、地域住民と共に音楽を楽しむ場に参加するプランを立てた。
3 自立生活支援の観点から、Bさんが一般就労をした後に地域移行を目指すプランを立てた。
4 ノーマライゼーションの観点から、Bさんの実家近くの障害者支援施設へ入所するプランを立てた。
5 住民主体の観点から、地域移行後のBさんの支援を全面的に住民ボランティアに委ねるプランを立てた。社会福祉士国家試験過去問 第33回(2021年)より解説
問題32からは、「地域福祉の理論と方法」に入ります。
科目の1問目から事例問題というのは珍しいですね。たいがい事例問題は最後に持ってくることが多いので。そのへんの意図などについて、この科目の全10問の構成を見てから、改めて考えてみましょうか。
ポイントは、問題文に「地域福祉の理念・原則に基づき」とあるところですかね。
この限定があるので、このケースとしてありうる選択肢であったとしても、「地域福祉の理念・原則」にそぐわなければ×ということになります。地域福祉の理念・原則としてあげられているのが、「自己決定の尊重」「社会的包摂」「自立生活支援」「ノーマライゼーション」「住民主体」の5つの観点ということになるわけです。
事例の文章は、近年どんどん短くなっています。
ですので、事例を早く読む能力よりも、的確に正解に落とし込むことを、国家試験が求めているといっていいでしょう。
そうなればなるほど、近年の事例問題はどんどん易しくなっています。
だからこそ、事例問題は満点を狙うべきです。
逆に、「事例問題を落としたら、国家試験の合格が遠のく」と思ったほうがいいです。
すると、事例問題は、「確実に正解に導ける」そんな解き方、プロセスにこだわるべきです。
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
①まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
※1%でも可能性があれば残す!
②残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける。
(優先順位は問題文から読み取る:原則は「事例の後、早くやる順」)
では、一つ一つの選択肢を確認してみましょう。
選択肢1 △
自己決定の尊重はソーシャルワークの中で最重要とされる理念の一つです。
なぜですか?
「なぜってそんなの当たり前じゃないか!」って言って、応えようとすることから逃げちゃダメですよ。「当たり前」って回答の仕方ほど非科学的な態度はないのですから。
ソーシャルワークでは1980年代ぐらいから2つの原理が意識されてきました。
→遡って遡って遡って、それ以上さかのぼれないもの
「なぜそれがソーシャルワークっていえるの?」と問われて、遡って遡って遡って遡って遡ってずーっと遡って、それ以上遡れませーん、っていうものをソーシャルワークの原理といいます。
それが2つあると言われてきました。
「人権」と「社会正義」です。
(そこに2010年代に「多様性の尊重」「集団的責任」が加わって、グローバル定義になるのですが、それはまたの機会に。)
では「人権」ってなんですか?
「あらゆる人[=一人一人]が中心」という考え方
※それまでの「神様や王様が中心」という見方考え方との対比
「あらゆる人が中心」って考え方は近代に採用されました。
それ以前(=前近代)は神様や王様が中心でした。
それを否定したのが「人権思想」です。
前近代的な神様王様中心の発想が嫌だから、「誰もが人権持ってて、中心なんだ」っていうこの人権思想を守っていこうとするのです。
これが、ソーシャルワークの原理です。
そして、ソーシャルワークの原理は、これ以上さかのぼれません。つまり、「なぜ人権思想が大事なのですか」とは問いません。人権思想を否定してはそもそもソーシャルワークじゃない。
これがソーシャルワークの原理として人権があるという意味です。
さて、「みーんな中心」ってところから、「自己決定の尊重」って考え方が出てくるのは必然だってことはわかりますか。
これを論理的思考といいます。
だから、「自己決定の尊重」ってのがソーシャルワークにとって最重要だってことはわかりました。
すると、本人の希望が出てくるのを多少待ってでも自己決定を尊重するのは当然なのです。ということで、△残し。
選択肢2 △
社会的包摂。
これは1980年代から90年代にヨーロッパで出てきた考え方ですね。ソ連も崩壊し、社会の土台が崩壊していく。そんな時代に、あらゆる人を包み込む社会ってあり得ないのか、そういう問いが立ち上がる。
その問いこそが社会的包摂であり、「あらゆる人を包み込む、そんな社会はあり得ないのか(否、あるはずだ!」、ソーシャルワークはそう問い続けながら21世紀を迎えて今に至るのです。(この辺の話は、ヨーロッパの植民地主義あたりから離さないといえないのですが、またの機会に)
音楽好きのBさん。彼女を音楽がより楽しむ自由を求め、地域という場へ。社会的包摂として何ら問題なし。△残し。
選択肢3 ×
自立生活支援。
人権が原理で、社会的包摂が肯定されるのだから、当然、それらから自立生活という概念が生じるのも論理的必然です。
ただ、なぜ「一般就労」の後じゃなきゃいけないの?
一般就労しないと地域で自立生活できないなら、就労が自立に先立つことになりますよ。
ありえませんね。×
選択肢4 ×
ノーマライゼーション。
1960年代を象徴する、北欧から立ち上がった思想。
入所施設にいる知的障害者たちが「入所施設の集団生活は明らかにアブノーマルだ!俺たちにノーマルな生活よこせ!」と叫んだ、これがノーマライゼーションの始まりです。
それさえわかれば、入所施設に行くって発想は真逆だから×ですね。
選択肢5 ×
住民主体。
これも1960年代ごろから叫ばれだします。
第二次世界大戦というとんでもない戦争を経ても、まだ国家が仕切ろうとする冷戦構造下。
そんななかで、国家主導の在り方ではない、別様の在り方を求める運動が立ち上がるのです。そのキーワードがコミュニティであり、「住民が主体なんだ!」「国家なんかに頼らずとも住民が地域を作っていき、それによって住民は住民として生きていけるんだ!」って、そういう考え方です。住民が先でもなく、地域が先でもない。どっちもあっての住民主体。
ただ、だからといってBさんの支援を「全面的に」住民ボランティアに委ねても、Bさんの生活は成り立たない。
もっというと、ボランティアのみが主体ではない。
「住民として主体的に」とは、適切に公的な支援や、専門家の支援を使って、住民らしく生きるってこと。それが住民主体。
集まらないボランティアを、ただただ集めるために、ずーっと大学の前でビラ配りしつづけることが主体的な生き方とは言えないのです。
支援を受ける権利があるのだから、適切に行政からサービスを引き出して、その支援の下に自由に生きることもまた主体的に生きることなのです。ということで×。
残った選択肢は?
選択肢1と選択肢2。さてここで、優先順位をつける。
優先順位の基本は「ソーシャルワークの考え方では、早くやる順」
これが大前提。
事例問題で、残った選択肢で優先順位つけるときのほとんどが、この「どれを先にやるか」でOKです。(例外は、また機会があったら、そのとき解説してみましょう。)
さて。
ソーシャルワークから考えた場合
①「自己決定の尊重」で「Bさん自身から地域移行の希望が出てくる」のが先ですか
それとも
②社会的包摂で「共同生活援助(グループホーム)に移り、地域住民と共に音楽を楽しむ場に参加する」のが先ですか。
どうでしょう?
おそらく、どっちもありなんです。
じゃあ、どちらを先にやるか、それは何によって導かれるのか。
それは、「現実」によるんじゃないですよ。
参考書類のみならず、多くの人が「言葉が困難だから『現実的に』希望なんか出てこないから」、社会的包摂のほうが先って言っちゃうんですが、その答えの出し方は全くソーシャルワークっぽくないです。
答えを導くのは、何を理念や原則とするか、であるべきです。それがソーシャルワークです。なぜなら、ソーシャルワークは社会科学だからです。
問題文に立ち返りましょう。
タイトルでも「地域福祉の理念・原則」によるんだよ、って言ってるじゃないですか。
だから、社会的包摂で地域移行を先にするんです。
Bさんから希望なるものが出るのを待つのではなく、地域がBさんを待っているんです。地域がBさんを欲してるんです。
それにBさんが応え、地域にBさんを移行し、音楽を共にする中で、地域とともBさんからも希望がじわじわと滲み出てくるのです。
今のソーシャルワークはそう考えるんだと、この問題は教えてくれている、と私は思うんです。
どうでしょうか。
正解 2
【お勧め関連本】
地域福祉の理念がわかりやすく、かつ体系化されてまとまっていて、さらに入門としてもよみやすいものという限定が付くならば、やはりこの本になるでしょうか。岩間先生がご存命であれば続編も出たであろうと思うと残念でなりません。
【お勧め関連動画】
障害関係から展開した地域福祉の理念の事例に触れて、つい思い出したのは、「車輪の一歩」という動画です。この知的障害者の事例と異なり、車いすの身体障害者をテーマとした、1979年の古いドラマによるものなのですが、障害者の地域福祉を理念として掲げるとき、私が常に振り返る動画です。今はDVDで見られます。