・過去問3年分が国家試験の大前提であることを改めて確認
・「住宅政策」「居宅支援」もまたソーシャルワークであることの確認
問題30 日本における住宅政策や居住支援に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 「住宅セーフティネット法」では、民間賃貸住宅を賃貸する事業者に対し、住宅確保要配慮者の円滑な入居の促進のための施策に協力するよう努めなければならないとされている。
2 公営住宅の入居基準では、自治体が収入(所得)制限を付してはならないとされている。
3 住生活基本法では、国及び都道府県は住宅建設計画を策定することとされている。
4 住宅困窮者が、居住の権利を求めて管理されていない空き家を占拠することは、違法ではないとされている。
5 日本が批准した「国際人権規約(社会権規約)」にいう「相当な生活水準の権利」では、住居は対象外とされている。
(注)1 「住宅セーフティネット法」とは、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」のことである。
2 「国際人権規約(社会権規約)」とは、国際人権規約における「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」のことである。社会福祉士国家試験 第31回(2021年)より解説
これ、「難問」と思われがちです。しかし、私から見たら難問ではありません。
これは、点が確実に取れないとダメな問題です。
なぜなら、3回前の過去問(=第30回)、つまり、試験センターに無料開示されている過去問で、選択肢1で問われている「住宅セーフティネット法」について、単独問題で出題されているからです。
第30回問題30「住宅セーフティネット法」の内容に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
① 住宅確保要配慮者には、子育て世帯が含まれる。
2 住宅確保要配慮者には、災害の被災者世帯は含まれない。
3 公的賃金住宅の供給の促進は含まれない。
4 低額所得者以外の住宅確保要配慮者への家賃低廉化補助が含まれる。
5 民間の空き家・空き室の活用は含まれない。
注) 「住宅セーフティネット法」とは、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」のことである。
この第30回問題30の正解である選択肢1、2,4には、「住宅確保要配慮者」という、今回の問題の選択肢1で問われているワードが、そのまま出ているじゃないですか。
じゃあ、このあたりについては、ちゃんと整理しておかないとダメですよ。
それ踏まえて、今回の問題の選択肢1です。〇ですか、×ですか?
選択肢1 〇
そう、〇なんですよ。
こんな問題を見てもわかるように、国家試験は過去問3年分を前提に出題してくれているのです。
なのに、「同じ過去問は出ないから」といって、過去問3年分を勉強しない人がいますが、ありえませんよ。
しかも、(注)にはこの法律の正式名称(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)が提示されているじゃないですか。
この法律名を見る限り、住宅確保要配慮者の賃貸住宅供給を施策として促進させるわけでしょう。その際に、さすがに民間に対して、その協力を義務にはできませんよね。民間は営利目的なんですから。せいぜい努力目標どまりです。もし、これが義務になるなら、公的な住宅になります。それが選択肢2の公営住宅につながるわけでしょ。
過去問踏まえれば、この選択肢から「〇をつけてぇ~」という声が聞こえてくるんです。いや、聞こえてこなきゃダメなんですよ。
選択肢2 ×
選択肢1の解説から引きとっての公営住宅。
このように考えると、公営住宅は「住宅確保要配慮者」への円滑な入居の促進を、公的政策の名の下に義務としてやるわけでしょう。
そうであるならば、一定収入(一定所得)以上の人は入居させないような制限をしていいに決まってるわけじゃないですか。一定収入(一定所得)以上の人の住宅は、民間事業者に任せればいいのですから。
ということで、選択肢1を踏まえれば、公営住宅法なんて知らなくても×とわかります。
選択肢3 ×(△でもOK)
先の問題28では、解説で「〇〇基本法」について軽くまとめました。
ここらへんはわからない人も多いかもしれませんね。
かといって、こういった住宅政策まで覚えるぐらいなら、その時間と労力を、ソーシャルワークのほかの法律とか制度とか歴史につぎ込んだ方がいいです。(もっというと、このような選択肢を見ても、やはり選択肢1を〇にしておしまいという問題なんだと思います、この問題30は。)
高度経済成長のころには、住宅政策も含め、全国総合開発計画とかいって、日本の国土をどかんどかんと開発をしていったことぐらいはわかるでしょう。
そのようなノリが終わったのが1990年代です。そんなノリが終わったことを踏まえ、具体的な制度変更を次々としていったのが2000年前後なわけです。
これは建設関係だろうが、社会福祉だろうが変わらないんですよ。
住宅関係は、高度経済成長期には、「住宅建築計画法」って法律で、いけいけドンドンでやってたんです。それが2006年に「住生活基本法」に変わったわけです。
↓
1990年代 高度経済成長、バブル景気の終わり ⇒2006年「住生活基本法」
もちろん、選択肢にある「住宅建設計画」とは、かつての住宅建設計画法の下の計画なわけです。
選択肢4 × (×に近い△でもOK)
「占拠」って言葉のニュアンスがわかればすぐ×とわかるんですけど、占拠とか占有といったニュアンスがわからないと、こういう選択肢でひっかかってしまうんでしょうね。
支配下なんていうと物々しく感じるかもしれませんが、日常的なことです。
例えば、ファミコンのカセットを借りていたとして(=この例じゃ世代がばれる)、そのカセットを借主は占有していると考えます。
ただ、この占拠や占有という概念のミソは、「所有」ではないということです。
所有者は、ファミコンのカセットの持ち主で、貸してくれた人。じゃあ、占拠だとか占有だとか言わずに、「借りてる」とか言えばいいじゃないか、と思うかもしれませんが、占拠や占有というのは、借りてる場合だけじゃなく、不法に使っちゃってる場合も含めて、占拠や占有というのです。
そのような不法な占拠や占有だとしても、それが一定期間以上続いてしまうと、その占拠や占有した物や建物の所有権が、占拠や占有していた人に移ってしまうってことが、法律上認められているのです。
選択肢にある「居住の権利を求めて管理されていない空き家を占拠」というのは、管理者がよくわからない、ということです。
そういうドサクサの状況の中で、勝手に空き家を占拠し、一定期間住み込んだうえで、「俺らには法的にも住む権利があるんだ!」って言って、権利を取ろうとするってことなんです。
こんなのを日本が住居政策として認めだしたら、空き家は無法遅滞になってしまいますよ。つまり、賃貸という契約関係で成り立っている住宅政策が、いかに占有・占拠しちゃうか合戦になってしまいます。
これはどう考えても認められないですね。
もちろん、空き物権を住宅困窮者に積極的に貸し出すという政策はありえますが、占拠・占有を国家が積極的に認めるなんて話はありえないです。
選択肢5 × (×に近い△でもOK)
国際人権規約(社会権規約)について詳しくしらなくても、これは×だろうなという推測はつくんです。
というのも、この問題にある「住宅政策」「居住支援」って発想は、ヨーロッパ由来なのです。
ヨーロッパでのソーシャルワークの中には、これら住宅や居住というものへの政策や支援も入ってくるんです。
その意識が、日本では希薄だったのです。それが、2000年前後になって、日本も段々とこの発想が取り入れられていった、というのが「住生活基本法」が設立した背景です。
で、国連の人権規約等々はやはりヨーロッパ由来の発想が多いものです。
すると、住居が対象外ってことはありえません。
それだけじゃなく、日本の「住宅政策」「居住政策」というタイトルの下で、この選択肢に〇をつけさせる、そんな国家試験であれば何を問うているのかがさっぱりわからなくなります。
わからなくても、強い推測でこれは×で処理しましょう。
正解 1
ちなみに、11回前になりますが、ちょうど住生活基本法や住宅セーフティネット法あたりができたころには、こんな問題が社会福祉士の国家試験で出ています。
第23回問題31 我が国の住宅政策に関する次の記述のうち、正しいものを一つ選びなさい。
① 公営住宅法は第二次世界大戦後、低額所得者向けに健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備・賃貸し,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として制定された。
2 住生活の安定や向上の基本となる事項を定めた住生活基本法が平成18年に制定され、それに伴って公営住宅法は廃止された。
3 住生活基本法において都道府県には住生活基本計画の策定が義務づけられ、国はそれら都道府県計画を集約して全国計画を策定することとされている。
4 「高齢者の居住の安定確保に関する法律」により、公営住宅の一種として高齢者円滑入居賃金住宅が設けられ、高齢を理由に入居を拒んではならないこととされた。
5 「住宅セーフティネット法」により、低所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭等への家賃補助制度が導入された。