ソーシャルワークから見た「日本における男女共同参画」

04現代社会と福祉

今回のポイント
・基本法の射程を理解する。
・男女共同参画の射程を理解する。

問題28 日本における男女共同参画に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 男女共同参画社会基本法は、男女が様々な活動に参加できるよう、性別役割分担の強化に努めなければならないとしている。
2 男女共同参画社会基本法は、男女が性別による差別的扱いを受けることを防止するため、行政機関や事業主に対する罰則を規定している。
3 男女共同参画社会基本法は、都道府県が都道府県男女共同参画計画を定めるように努めなければならないとしている。
4 2018年(平成30年)7月時点で、国家公務員の本省係長相当職以上の職員に占める女性の割合は3割に達していない。
5 「ジェンダー・ギャップ指数2020」における153か国の総合スコアでは、日本はジェンダー平等が進んでいる方から数えて上位50位以内に入っている。

(注) 「ジェンダー・ギャップ指数2020」とは、世界経済フォーラムが2019年12月に報告書「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2020」において発表した、経済・政治・教育・健康の4分野における各国のジェンダー平等度を示す指数のことである。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

これは「基本法」と「男女共同参画」の現状、この二つをまとめて聞いている問題ですね。

「〇〇基本法」で社会福祉士国家試験場狙われるのは以下のものぐらいでしょうか。

社会福祉士国家試験で問われる「〇〇基本法」
<福祉六法体制期>
障害者基本法:1970年(昭和45年)
<社会福祉基礎構造改革期>
高齢社会対策基本法:1995年(平成7年)
男女共同参画社会基本法:1999年(平成11年)
少子化社会対策基本法:2003年(平成15年)
住生活基本法:2006年(平成18年) ※第33回問題30

これを踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。

選択肢1 ×

男女共同参画って言っておきながら、「性別役割分担の強化に努める」って、こんなのは考えられないから即×。解説もいらないぐらいでしょうか。ただ、「性別役割分業」っていう概念(考え方)がわからない人にとっては説明が必要かもしれないですね。「社会理論と社会システム」で、パーソンズの話あたりに絡めて出てきやすいところですが、典型的には「男は外で働き、女は家で家事をするもので、それが当たり前だ」といった、男と女で適切な職業や家事・育児の役割があるとする考え方です。「男女共同参画」という概念(=見方・考え方)の前提には、性別役割分業のような考え方によって社会が行き詰っている、だからこの考え方を打破しよう、という発想があります。

この、「社会の行き詰まり感」というのは、性別役割分業の行き詰まり単独では生じません。社会福祉の行き詰まり感も含めて、あらゆるものが連動して「行き詰ってるなぁ~」と感じられることで、社会の行き詰まり感となるのです。それが日本では1990年前後あたりから生じます。だから、1990年代に社会福祉では社会福祉基礎構造改革が行われるわけですが、これは社会福祉に限ったことではなく、社会の行き詰まりを打破するために、あらゆる行政施策等含め大きな改革が1990年代に行われたのです。そこで使われたのが、それまでの憲法観の延長での基本法ではない、新たな理念を指し示す基本法であり、1990年代以後、たくさんの〇〇基本法が作られたのです。

選択肢2 ×

選択肢1の解説を続けると。基本法というのは「理念」を指し示す法です。だから、基本法は「理念法」だ、などと言われることもあります。理念とは、抽象的なものです。抽象的だからこそ、全員を巻き込んで「みんなであっちの方へ進んでいこうぜー!」と全員に対して言えるのです。小学校とかの生徒会でスローガンとか作ったでしょう。あんな感じです。

すると、そんなスローガンに「〇×をしたら退学にするぜー」なんて具体的なことが書いてあったらおかしいでしょう。それは全員に当てはまるものではない(=個別具体的)からです。罰則などは個別具体の最たるものです。何何をしたら退学なんてのは、たとえば学則(=個別具体を示す規則)に書いてあるわけです。このように法律には、理念を語る抽象度の高い法律(その最上位が日本国憲法、次に基本法)と、制度を個別具体的に定める法律とがあります。

ですから、男女共同参画という考え方を推し進めるにあたり、罰則が有効かどうかは別にして、そもそも「基本法」である限りは、罰則規定など書いてあるはずがないのです。

選択肢3 ×(×に近い△でもOK)

冒頭に4つ挙げた〇〇基本法のなかで、障害者基本法は社会福祉の障害者施策につながる基本法ですので、これはしっかり押さえなければなりませんが、他の3つは、社会福祉施策の法ではありませんので、どこまで覚えていいかは悩ましいところでしょう。ただ、それは国家試験問題作成者側だって百も承知です。ですから、同じ基本法である障害者基本法から類推されること以上のことを国家試験では出してはきません。

例えば、障害者基本法には障害者計画が規定されています。1993年に初めて規定された当初は国が義務(障害者基本計画の名で)、都道府県や市町村は努力義務でした。それが、11年経った2004年には都道府県や市町村も義務になって今に至っています。2000年代に入り、具体的に契約制度に移行するそんな時点で、実際に契約制度を仕切る都道府県や市町村に計画作成を義務化しなければ、いくら基本法による理念的な計画だとしても、まずいからです。

これらを知っていれば、「男女共同参画」を1990年代に掲げ、基本法を作って、今やそこから20数年ですよ。それでいて、様々な面で男女が共同参画しなければにっちもさっちもいかない、そんな社会がもう来ているのに、いまだに都道府県ですら計画が努力義務だとしたら、まずいでしょう。

違う考え方をしてみましょうか。

もし、これが〇だとしましょう。国家試験が〇をつけさせたい、そんな選択肢にはソーシャルワークにおける強い意味があるはずなのです。つまり、問題文のタイトルにふさわしい選択肢に〇をつけさせることで、ソーシャルワークの立場からの考え方や判断を述べているのですから。すると、「日本の男女共同参画」のタイトルの下で、「都道府県が都道府県男女共同参画計画を定めるように努めなければならない」なんてものに〇をつけさせますか?もし、都道府県ですらまだ努力目標止まりだとしたら、大変に遅れていることであり、情けないことになりますよ。そんなものに〇をつけさせるわけないじゃないですか。

選択肢4 ○に近い△でOK  選択肢5 ×に近い△でOK

こんなデータ知りません。おそらく国家試験受験生の1%ぐらいしか具体的にこの資料とその数字を覚えてはいなかったことでしょう。でも国家試験が出してきた、ということはどういうことですか?暗記しろ、と国家試験が言っているんのですか?違うと私は思います。

論理で解けるのです。もう少し丁寧に言えば、国家試験問題作成者が何に〇をつけさせたいか、その意図を、受験生であるあなたが論理的に把握できることを、国家試験は求めているのです。

そして、この選択肢4は、選択肢1~3を踏まえなければなりません。選択肢1~3で伝えていることは何でしょうか。基本法という理念では、できるところまでもうやっている、できているんだ、ということです。理念としては、掲げるべきことを掲げ、都道府県にまで計画を義務化するぐらいのこともすでにやっている。理念としては、やれるとこまでやってるんです。

じゃあ、現実はどうか。個別具体はどうか。理念は掲げたけれど、まだ現実はその理念に追いついていないよ。という現状認識を、あなたがた受験生に知ってほしいと国家試験は思っているのです。

選択肢1から3が×だとはっきり言えれば、つまり、日本では男女共同参画社会基本法によって、男女共同参画という理念をしっかり掲げているんだ、ということがわかってさえいれば、あとは現実はどうですか、と選択肢4と5が残り、どっちかが〇でどっちかが×なわけです。

すると、日本の男女共同参画に関する現実はまだまだなんだ、ってことぐらいは知ってなきゃいけないです。なぜなら、それも含め今の日本の、社会福祉も含めた課題だからです。まだまだなのだとしたら、もちろん、詳細なデータを見たことがなくても、その表現から、選択肢4が〇で、選択肢5が×に決まっているじゃないですか。

国家試験と対話すること、対話しながら国家試験が言いたいこと伝えようとしていることに気づいて、〇をつけて応答してあげること。これが国家試験の合格の秘訣であるとともに、相手の意図を踏まえて応答するというソーシャルワークの有り方なのです。

正解 4

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