・現物給付と現金給付の違いを整理する
・普遍主義と選別主義を、具体的な制度に引きつけて理解する
問題26 福祉政策における資源供給の在り方に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 現金よりも現物で給付を行う方が、利用者の選択の自由を保障できる。
2 バウチャーよりも現金で給付を行う方が、利用者が本来の目的以外に使うことが生じにくい。
3 日本の介護保険法における保険給付では、家族介護者に対して現金給付が行われることはない。
4 負の所得税は、低所得者向けの現金給付を現物給付に置き換える構想である。
5 普遍主義的な資源の供給においては、資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
こういう問題は差がつきやすいのだろうな、と思います。なぜなら、暗記でなかなかカバーしにくいからです。
ただ、こういう問題ほどソーシャルワークの考え方の入門として、とても勉強になるところです。なぜなら、こういう問題ほど、ソーシャルワークの見方・考え方が的確に指し示されているからです。
一つ一つの選択肢ごと丁寧に見ていきましょうか。
選択肢1 ×
「現金給付」と「現物給付」というやつですね。
これも暗記デメリット、デメリットを潰そうとせず、自分の生活実感から考えればいいのです。私たちはなぜ現金で給与をいただくのですか?それは、お金は自分の必要に応じて自由に使えるからです。
では、現物給付には意味がないですか?
そんなことはありません。
子どもが参考書代とか言ってお金をせびってきて、渡したら、どうやらそのお金でゲームを買っていた、なんて話はよく聞きます。
これを防ぐためには、親が直接参考書を買って渡せばいいわけです。
では、選択肢にある「利用者の選択の自由の保障」というメリットが生じるのは、現物給付と現金給付のどちらですか?
もちろ、現金給付のほうですね。
選択肢2 ×
バウチャーとは引換券のことですよ。これは知っておきたい。過去問でも出てますから。
第24回問題28 福祉政策の手法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
3 バウチャーの支給という方式の長所は、現物給付方式の場合よりも.受給者に対して物品や事業者の選択を広く認めることができる一方で、現金給付方式のように支給されたお金が他の目的のために使われてしまうということが起きない点にある。
引換券がよくわからないなら、「商品券」でも別にいいですよ。
ビール券で考えてみましょうか。
ビール券はビール以外には代えられないですよね。
えっ?ビール券は金券ショップでお金に代えられるって?まぁ、確かにそうなんですけど。
だから、バウチャーっていう場合は、それを金券ショップでお金に代えられないようになってるんですよ。
お金に代えられない商品券(バウチャー)は、その商品との交換以外の目的では使えないわけです。
一方で、お金は?
選択肢1で説明したように、参考書代といって、ゲームを買っちゃったりできるわけです。
選択肢3 〇(〇に近い△でもいいですよ)
今の介護保険では、家族介護者とヘルパー(=職業人)ははっきり分けた上で、後者(=ヘルパー)に対してだけ、属する事業所に対して、現金給付を行ってます。
これは障害者総合支援法でもいっしょの考え方ですね。家族介護については、無償です。
この是非については、昔からずーっと言われつづけ、議論されていますけどね。認められてないです。
じゃあ、あらゆる制度において、家族介護者に現金給付は行われないですか?
考え方はちょっと違うのですが、例えば、生活保護法には障害者加算があります。
ただ、これは、家族介護者に支払われるのではなく、障害者の最低生活を保障するために必要な金額を世帯単位で保証する、という考え方によりますが。
また、特別児童扶養手当等の支給に関する法律による、特別児童扶養手当は障害児に対する手当てですが、これもまた家族介護者へのお金という体にはなっていなくて、障害のある児童はこれぐらい別途必要だから、という発想からの「手当」になりますね。
このように、「どういう名目でお金がでているか」は、けっこう大事なことです。
なぜかというと、行政なりにお金を要求する際には、何の名目なのか、ということで、お金の出所が違ってきますし、それが認められるかどうかも変わるからです。
選択肢4 ×
負の所得税は、「逆所得税」なんていわれることがあります。
なぜかというと、所得がある一定水準を下回った場合、「税金が(払うんじゃなくて)もらえる」って発想だからです。
フリードマンってアメリカの経済学者が1960年代に言い始めて広がりました。(もともとは違う人が言ってたらしいですけど。)
結構古くからある論ですが、社会福祉業界では今でも「負の所得税」論者はいます。
もちろん、これは所得格差を是正する措置です。
これ、生活保護と違って、所得だけで見て、一定水準より低ければ、自動的に税金をその人に振り込んじゃうって考え方だから、メリットは、手続きがすごく楽で、行政としてもコストがかからないことです。
一方で、デメリットは、こんなのあったら誰も働かなくなるじゃないか、などと言われますね。ベーシックインカムと同様の批判ですが。
皆さんは、負の所得税やベーシックインカムが制度化したら、働きませんか?
選択肢5 ×
普遍主義の反対はわかりますか?これわからないとダメです。
この対比は、社会福祉の大前提ですよ。
選別主義とは、読んで字のごとく「選ぶ」んです。
選ぶって何か。
例えば、ここでは「福祉サービスの対象者」の話をしていますから、福祉サービスで考えましょうか。
福祉サービスを誰に使わせるか。
誰にでも使わせる権限を与えるなら、それは「普遍主義」による考え方です。
一方で、福祉サービスを使える権限を、選ばれし人に限定して与えるなら、それは、「選別主義」による考え方です。
例えば、日本の障害者福祉は、以前は障害者手帳を持っている人だけに限定されて、身体障害者福祉法や知的障害者福祉法の制度が使えたわけです。それが、今は障害者総合支援法の障害福祉サービスは、障害者手帳の所持者には限定されません。
そういう言い方をすると、以前よりも「普遍主義」に障害者施策は近づいた、と言えるでしょう。
ただし、市町村が障害認定をして、障害者支援区分がなければ使えない、っていういい方をしたら、今でも「選別主義」だ、ってことになるでしょうね。
要は、どこに焦点化するかによって、普遍主義ともいえるし、選別主義ともいえるのです。
この選択肢では、「『資力調査に基づいて』福祉サービスの対象者を規定する」と書いてありますから、この調査で福祉サービスを使える人と使えない人に分ける、ってことですから、これは「選別主義」になるわけです。
正解 3