ソーシャルワークから見た「合計特殊出生率」

03社会理論と社会システム

今回のポイント
・国家試験で提示される初見の資料との向き合い方を知る。
・合計特殊出生率が現代社会でやたら焦点化される背景を理解する。

問題15 「令和元年版少子化社会対策白書」(内閣府)に示された合計特殊出生率に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 日本の合計特殊出生率は、1975年(昭和50年)以降2.0を下回っている。
2 日本の1999年(平成11年)の合計特殊出生率は1.57で、それまでの最低値であった。
3 日本の2017年(平成29年)の合計特殊出生率は、2005年(平成17年)のそれよりも低い。
4 イタリアの2017年の合計特殊出生率は、フランスのそれよりも高い。
5 韓国の2017年の合計特殊出生率は、日本のそれよりも高い。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

今日から問題15~問題21まで「社会理論と社会システム」という科目になります。

問題7~14までの「心理心理学理論と心理的支援」では、問題7で、今の人間の在り様をモデル化し、そこにいかに心理における理論やそこから派生した方法論が迫っていけるか、そんな構成になっていました。

それに対して、「社会理論と社会システム」では、冒頭の問題15で「『令和元年版少子化社会対策白書』(内閣府)に示された合計特殊出生率」、つまりは今の合計特殊出生率という、社会の在り様を問うていることからもわかるように、今日の日本社会の課題から入っています。もちろん、それはただの課題ではなく、社会福祉士国家試験で問われる以上、ソーシャルワークとして問うべきと国家試験が考える課題があげられているわけです。

さて、そうすると、それ以後の問題構成は、それら課題に向き合っていくための社会理論が問われるのだろうな、なんて推測ができれば、より国家試験に向き合いやすくなりますし、予測しやすくなって、いいんじゃないですかね。

ただ、現代社会の課題をあげるような問題は、次の科目である「現代社会と福祉」でもそうですが、何をもって課題と理解するか、つまり何を資料として出してくるかわからないため、覚えることが膨大にありそうに思えます。しかし、そうだからこそ、国家試験に教えてもらうのです。どれぐらいの知識があれば国家試験の問題が解けるのか、過去問から割り出すのです。そして、そこから、何を問われているかを考え、どの程度の知識があれば十分かを逆算して踏まえたうえで、暗記を減らしていけばいいのです。

そんな観点で、選択肢を1つ1つ見ていきましょう。

まず最初の3つの選択肢を解くためには、最低限以下の知識を知っていけば〇×をしっかりつけることができます。逆に言えば、これだけしっかり覚えておければ大丈夫だって国家試験は言っているのです。さぁ覚えましょう。

参考 「合計特殊出生率」の最低限の知識
1947年~49年:第1次ベビーブーム ※このころは合計特殊出生率4を超えていた
↓その後10年で一気に急降下
1950年代前半から1970 年代前半:約20年ほどは、2.1前後で安定
例外 1966(昭和41)年 が1.58 ※「ひのえうま」という特殊要因
1972年~1974年:第二次ベビーブーム ※1972年 2.14  ※2.1を超えた
ただし、1974年に2.05=人口置換水準の2.07を下回り、翌年1975年には2をも下回る
ここから年々下がっていく
1989(平成元)年 1.57ショック ※「ひのえうま」の年より下がる
2005(平成17)年 1.26 過去最低
↓以後、少しだけ盛り返す
2012年~18年 1.4以上
↓それが
2019年 1.36

選択肢1 〇

選択肢1で「2」という数字を問うているのは、一人の女性から二人の子が出産されれば、人口は維持されるからです。この数字を「人口置換水準」といい、こどもは成人になる前に亡くなることなども想定すると、実際には2.07ぐらいの数字を基準としてます。

ですから、この数字を上回れば人口は増える、この数字を下回れば人口は減る。そういう基準となる数字なので大事なわけです。

その数値をいつ切って、その後、どうなっているかぐらいはソーシャルワーカーたるもの知っておいて当然だよ、と言っているのです。

ただ、第二次ベビーブームの最後の年である1974年に、2.05で、翌年1975年には2を切ってしまった、ってぐらい知っていれば、あとはずーっと下がり続けているのですから、この選択肢をすぐ〇にできると思います。

選択肢2 ×

1966年は「ひのえうま」といい、この年に生まれた人はどーのこーのという迷信があります。そんな迷信ぐらいでと思うかもしれませんが、この年の出生数だけ異常に少ないのです。その象徴としての合計特殊出生率1.58。

その翌年すぐ回復するものの、そこからずーーーと減り続けて、とうとう、社会的な特別要因があった1.58をも自然減で下回った、それが1989年の1.57ショックです。

国家試験では、それを1999年としてくれています。

つまり、1989年か1990年かみたいなそこまでは覚えなくてもいいから、10年ぐらいずらされたら、×といえるようにはしておいてね、と国家試験は言っているのです。ですので、私は学校の授業で歴史的な問題であれば、10年単位ぐらいで抑えるように教えています。国家試験がそう教えてくれているからです。

選択肢3 ×

これも一見すると、2017年の数値と、2005年の数値、どっちも覚えるように国家試験は言っているように見えるかもしれませんが、違いますよ。

2005年の合計特殊出生率が今までで最も低いということさえ知っていれば解けます。というのも、ここ10数年ほどは、微々たるものではありますが、合計特殊出生率はちょっと上がっていたからです。その傾向も含め理解さえしておけば、2005年が過去最低で、1.3をも切ったぐらい覚えておけば、それで十分だってことを、国家試験は教えてくれてます。

社会福祉の制度に直結する数字なら、細かいところまで押さえなければならない場合もありますが、合計特殊出生率など直接に社会福祉の制度につながるものではないものであれば、ポイントだけでいいんです。そのポイントとは社会福祉上何が重要なものです。

「えー?社会福祉上で重要なことって何?」

それがわからないなら、国家試験に聞けばいいんです。

例えば、過去最も合計特殊出生率が低かった年ぐらいは何となくでいいから覚えておいてね、とここでは教えてくれているわけです。

選択肢4 × 選択肢5 ×

世界にはたくさんの国がありますから、全部の国の合計特殊出生率なんて覚えてられません。じゃあ、どこが問われるのか、つまりはどこと日本を比較することがソーシャルワークとして求められているのか。これも国家試験に聞けばいいのです。

フランスもイタリアもヨーロッパの中でも日本同様の先進国とされる国です。それゆえ、日本とも比較されます。それらヨーロッパの先進国の中では、フランスとイタリアは対照的です。フランスはヨーロッパ先進国の中で少子化問題に対応できている国の代表であり、イタリアは少子化問題に課題を抱える国の代表だからです。フランスは合計特殊出生率は2まではいかないもののそれに近いぐらいの数字をキープしている、ぐらいの覚え方で十分です。ほかに少子化問題に対応できている先進国として、イギリスや北欧、そしてヨーロッパ以外ではアメリカが挙げられます。そのなかでも、今はフランスが合計特殊出生率はトップです。

フランスや北欧が対応できている所以として、「出産・子育て」と「就労」に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を国として強く推進しているから、と言われたりします。つまり日本でいう「社会福祉」的な施策が「出産・子育て」という分野においても国家主導で早くから行われていたことによる成功例として、これらの国はよく上げられます。一方で、アメリカとイギリスについては、それとは異なり、家族支援に対して国は積極的ではないものの、経済的動向(景気の良さ)などにより、育児に関する民間サービスが充実しているからだ、などと言われたりしているようです。まぁ、社会福祉士の国家試験でフランスが代表として挙げられている、その背景がわかったでしょうか。

一方、イタリアは日本に近い合計特殊出生率ですが、日本よりも数字上は悪いです。

ほかにはスペインなども日本同様の課題を抱えているといわれています。イタリアやスペインが抱える課題は、失業率の高さ・出産への財政支援の少なさ等があげられます。経済的な課題を抱えつつも、家族支援をいかに国家として行っていくか、このあたりも日本と同様の課題を抱えているといえるので、合計特殊出生率についてイタリアが国家試験で出てくるのもわかるのではないでしょうか。

さらに、ヨーロッパ等の先進国だけでなく、今度は近隣アジアと比較してみましょう。

すると、お隣の国である韓国が際立ちます。というのも、韓国の合計特殊出生率は1を大幅に割っていて0.8に迫っているからです。急激な経済成長を果たしたものの、ここ10年ほどの急激な非正規労働化による、若年層の雇用不安が根底にあると言われているようです。

ということで、これら合計特殊出生率について、どこまで覚えればいいかを国家試験から教えてもらい、それはなぜそこまで覚えなきゃいけないのか、論理的に検討してみました。

どうでしょうか。

正解 1

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