・ソーシャルワークにおけるモデルを整理する。
・生活モデルの特徴を、ソーシャルワークの歴史を踏まえて、理解する。
問題106 次のうち、生活モデルにおけるクライエントの捉え方として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 環境から一方的に影響を受ける人
2 成長のための力を有する人
3 治療を必要とする人
4 パーソナリティの変容が必要な人
5 問題の原因を有する人社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
問題104で、「在日外国人支援」という今日的な具体的課題について問い、それを踏まえた問題105で改めて(在日外国人支援をも含みこむ)ソーシャルワークの援助プロセスそのもの流れの意味を確認し、それらを踏まえて問題106では、それら援助プロセスではクライエントをどのように捉えると、援助プロセスが意味を帯びるか、改めて確認しようとしています。そこで、クライエントのとらえ方のキーとなるのが、「生活モデル」だっていうわけです。
生活モデルってどういう考え方か。これ、すでに解説しました。問題98です。
問題98を踏まえて、社会福祉士国家試験に出題される、ソーシャルワークにおけるモデルを整理しましょうか。
大前提として、モデルとアプローチの違いは大丈夫でしょうか。
モデルという場合は、見方や考え方の大枠を指し示すものです。一方で、アプローチという場合には、具体的な援助技術や援助方法を指し示すものです。
1910年代 リッチモンド:「治療モデル」
↓批判的に継承して
1960年代(=転換期) パールマン・ホリス・バートレット
↓踏まえて
1980年代 ジャーメイン:「生活モデル」
①ストレングスモデル:1970年代ごろに精神の分野から出てきた。
②医学モデル⇔社会モデル:障害者の定義の問題で語られる対関係。
※①②ともソーシャルワークの「治療モデル→生活モデル」と全く関係がないとは言わないものの、別の流れとして押さえておいたほうがよい。
※「治療モデル」を「医学モデル」と呼ぶ論者もいます。ですので、めんどうですが、「医学モデル」という言葉が出てきた場合には、障害者の定義の話で、「社会モデル」の対で言っているのか、それともリッチモンド由来のソーシャルワークのモデルの話をしているのか、文脈から考えてください。
選択肢1、3、4、5 ×
これらすべて、「原因→結果」図式に基づく因果論的な説明による「治療モデル」的なクライエント理解だということがわかりますか。この話は問題98の解説で丁寧にしたつもりです。
選択肢3の「治療を要する人」なんかは、治療モデルのクライエント理解だとわかりやすいですね。
選択肢5なんかも、「問題の原因を有する」という表現が、「原因→結果」図式によるものとわかるかと思います。
選択肢3のパーソナリティは、リッチモンドがソーシャルワークの目的と掲げたのが「パーソナリティの発達」でしたね。ただ、パーソナリティの変容が必要な人が「治療モデル」のクライエントと言えるのか、引っかかる人がいるかと思います。
これもまた、問題98で説明したつもりですが、「治療モデル」という見方・考え方は、「正しい状態」がまずもってあることを前提にして成り立ちます。なぜなら、「正しい状態」からズレることが問題だという理解が共有されるがゆえに、その問題を「原因→結果」図式で探るという見方・考え方が正当化されるからです。すると、「パーソナリティの変容が必要な人」というクライエント理解には、その背後に、「そのパーソナリティではダメだ」と理解されるほどに、「正しいパーソナリティ」なるものが前提にあるわけです。
選択肢1も、一見すると環境なんて概念を使っているので、今のソーシャルワークっぽく見えるかもしれませんが、一方的に影響を受けるということは、「環境→クライエント」という図式であり、これもまたクライエントを「原因→結果」図式で説明しているわけです。
選択肢2 〇
選択肢5の「成長のための力を有する人」という表現は、問題98の解説で説明した、パールマンの「ワーカビリティ」に近い表現ですね。
ジャーメインの「生活モデル」は、パールマン、ホリス、バートレットの視点を含みこんだものだと、説明しましたから、この選択肢は典型的な正解となります。
問題としては易しいですが、私たちの目的は過去問をただ解くことではありません。過去問からソーシャルワークを学ぶことです。この易しい問題から、これぐらいのソーシャルワークの見方を学べれば十分かな、と思います。
正解 2
【お勧め関連本】
リッチモンドから始まるこれらソーシャルワークの基本的な考え方について、歴史の流れも踏まえつつわかりやすくまとまっている本です。ソーシャルワークの歴史や考え方も含めた入門書としてはこれが秀逸だと思います。