・マートンのアノミーとデュルケムのアノミーの違いを知る
・社会理論の見方考え方について理解する
問題21 次のうち、マートン(Merton, R.K.)が指摘したアノミーに関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ある現象が解決されるべき問題とみなす人々の営みを通じて紡ぎ出される社会状態を指す。
2 下位文化集団における他者との相互行為を通じて逸脱文化が学習されていく社会状態を指す。
3 文化的目標とそれを達成するための制度的手段との不統合によって社会規範が弱まっている社会状態を指す。
4 他者あるいは自らなどによってある人々や行為に対してレッテルを貼ることで逸脱が生み出されている社会状態を指す。
5 人間の自由な行動を抑制する要因が弱められることによって逸脱が生じる社会状態を指す。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
この問題ですが、問題のタイトルが「アノミー」だけじゃダメなんです。「『マートンが指摘した』アノミー」じゃないと問題として成立しないのです。
なぜでしょうか?
それは、エミール・デュルケムが指摘した「アノミー」があるからです。そして、デュルケムが指摘したアノミーがこの選択肢の中にあるからです。
デュルケムの社会理論は、「類型」的なものです。(ウェーバーでいうところの理念型的なところがあります。)
「類型」的とは何でしょうか?それを理解するために、モデル的なパーソンズの理論と対比してみましょう。
パーソンズの社会理論は「モデル」的なところがあります。
「モデル」とは?現実に近ければ近いほどよいとされ、現実を正確に映し出そうとするものです。
一方で、「類型」には全くそういう発想ではありません。コントやマルクスのような発展段階論を使って未来を予測しちゃう、それを社会科学といっちゃう人に対して、未来の自由を確保するために、多様な可能性を論理的に確保しようとする、それが「類型」の背後にある発想です。
ですから、「類型」は現実に当てはまるかどうかは関係ないのです。そのへんの見方を強調するとウェーバーの理念型になります。
さて、マートンとはパーソンズの高弟で、パーソンズのモデル的な発想にも、デュルケムらの類型的な発想にも魅力を感じます。しかし、この両者とも、現場で具体的に使う知識としてのアプローチに結び付きにくいところを欠点と考えました。そこで、マートンはその欠点を解消しようとします。
そのような背景からマートンの理論は、抽象度の高い「モデル」や「類型」と、具体的な「アプローチ」との間を目指します。ということで、彼の理論は「中範囲の理論」と呼ばれます。
さて、デュルケムの「アノミー」は、(社会をコントロールする上で重要とされる)集団の「規範」が壊れたがゆえに、人は悩み、自殺にまで至ってしまう、として自殺を説明する類型です。
これに対して、マートンのアノミーはもう一工夫加えて、「アノミー」概念を、アプローチとしても使えるような理論にしようとします。マートンはアノミーを「文化的目標と制度的手段のズレ」と説明するのです。
文化的目標とはだれもが目標とする事柄であり、たとえば金銭的成功がそれにあたります。
対して、制度的手段とはその目標を達成するための手段です。
例えば。金銭的成功を得るには、勉強して、いい学校へ行き、いい会社に入ることが金銭的成功のための近道です。しかし、いい学校へ行くには、塾や家庭教師を雇える家柄でなければなりません。したがって、金銭的成功を強調すればするほど、貧しい家庭の人々は逸脱的な行為をしてでも金銭的成功を成し遂げようとすることになります。
これが、アメリカ社会(=アメリカンドリームという言葉が象徴するように、金銭的成功のチャンスは誰にでもある!と煽る社会)の犯罪率の高さの所以だとマートンは分析するのです。
選択肢3 ○
ということで、選択肢3が正解ですが、他の選択肢も見てみましょうか。
選択肢1 ×
この文章表現はわかりにくく見えるかもしれませんが、昨年の第32回の問題で、こんな問題が出ているのです。
第32回問題21
社会問題は、ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出されるという捉え方がある。このことを示す用語として、最も適切なものを1つ選びなさい。
④ 構築主義
ほぼ同じ表現ですね。
過去問は3年分が試験センターのHPで公開されている以上、やってることを前提に問題は作られます。ですから、この選択肢1を見て、すぐ「構築主義」と答えられなければ、過去問との向き合い方がまだまだ足りないよ、と国家試験が言ってますね。
選択肢2 ×
下位文化理論は、1920年代にシカゴ学派から出てきた理論で、アメリカの少年犯罪をネガティブな文化学習を経た結果としての犯罪としてとらえます。この理論では、非行少年としてのパーソナリティは、いきなり少年の内面に形成されるのではなく、非仲間集団における文化学習を通して社会的に形成される、と考えます。
ちなみに、選択肢にも出てくる「下位文化」はサブカルチャーともいいますが、下位文化は必ずしも犯罪的なものではありません。犯罪的な下位文化もあれば、遵法的な下位文化もあります。
下位文化という概念は、主流文化(例えば義務教育制度を強化し子ども全員が学校に通うことが当然になった文化)よりも、主流文化を前提にしつつ下位に分化した下位文化(例えば小さな非行少年グループが学校文化に対して距離をとるあり方)の方が、パーソナリティ形成に強い影響力を持つ、という見方・考え方のことです。ですから、犯罪行為に影響を持つと言いたいのであれば、下位文化ではなく「非行」下位文化と言わなければなりません。なぜなら、下位文化理論では、あらゆる人が主流文化と同時に下位文化にも接続しているからです。
選択肢4 ×
ラベリング理論は、1960年代にハワード・ベッカーによって提唱されたものです。犯罪行為が生じるのは、個人の内的属性(例えば、犯罪行為をしやすいパーソナリティ)より先んじて、ある行為そのものを社会が逸脱と判定した結果として生じるのだというのがこの論の骨子です。つまり、犯罪者とはある人間を逸脱者と社会が判定するラベリング行為を通じて発生するものなんだ、とベッカーは言います。
このラベリング理論の射程は(それは1960年代という時代精神とも通じるところですが)、「社会統制の強化(「社会」が逸脱行為というラベリングを貼る)こそ逸脱行動の増加をもたらす」という主張にあります。これは障害分野における「社会モデル」と同様に、個人の属性が先にあるのではなく、社会のレッテル張りの方が先にあるのだ、という考え方だと言えます。
選択肢5 ×
デュルケムによる統制理論による説明です。統制理論とは、社会統制が弱体化することが逸脱行動の原因であるという想定にたつ理論です。19世紀後半から20世紀初頭はこの考え方が主流で、デュルケムによる『自殺論』(1897年)における「アノミー的自殺」などはこの考え方の典型です。つまり、因果関係俊、原因「家族や地域社会の紐帯の弱まりや規範崩壊」→結果「犯罪の増加」と考えるのです。だから、家族・地域生活の紐帯を強化や規範の再構築をしなければならない、という発想につながります。
正解 3
【お勧め関連入門本】
逸脱に関する社会学の入門本って、最近いいのがないんですよねぇ。もちろん、社会学全体の入門本での中で、手際よく逸脱についてコラム的にまとめているものはありますが。ということで、私が学んだのはこれですかね。かなり古いものになりますが、逸脱の考え方の入門としてはこれが一番まとまっていて、わかりやすいと思います。図書館にはあると思いますので探してみてください。