ソーシャルワークから見た「社会集団」

03社会理論と社会システム

問題17 社会集団などに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 準拠集団とは、共同生活の領域を意味し、地域社会を典型とする集団を指す。
2 第二次集団とは、親密で対面的な結び付きと協同によって特徴づけられる集団を指す。
3 内集団とは、個人にとって嫌悪や軽蔑、敵意の対象となる集団を指す。
4 ゲマインシャフトとは、人間が生まれつき持っている本質意志に基づいて成立する集団を指す。
5 公衆とは、何らかの事象への共通した関心を持ち、非合理的で感情的な言動を噴出しがちな人々の集まりを指す。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

合計特殊出生率が年々減っていくような傾向が日本の社会にはある一方で、フランスのようにその傾向がとどまっている先進国もあります。※問題15の結論

だとするならば、「都市化」の理論(=問題16)だけでは、今ある社会の課題を把握するのには無理がある、と思いませんか。「都市」という私たちの外にあるように感じるものから私たちの在り様をすべて説明しつくすのではなく、私たちの在り様そのものも少し分けてみる必要があるようです。そこで、「社会集団」という類型で考えてみよう、ということになります。

社会福祉士国家試験では「社会集団」はよく出題されます。
直近では第31回問題19で「社会集団」をタイトルとして、ほぼ今回と同じ形式の単独問題で出題されています。その際、選択肢で出題されたのが、「※第一次集団/フォーマルグループ/※ゲゼルシャフト/※準拠集団/コミュニティ」です。選択肢もほぼ被っていますよね。(ちなみに、※が今回の問題と被っているもの。)
過去問は試験センターのホームページで、3年分を無料で公開・開示されています。見方によっては「便利な世の中ね」でおしまいかもしれませんが、それはお人よしすぎます。試験センターが3年分を公開しているということは、国家試験はその3年分を前提として問題が作られる、そういう見方をしたほうがいいです。それは、試験センターが無料で3年分を公開するようになったここ10年ほどの国家試験を丁寧に解けばよくわかります。だから過去問は最低限でも3年分は丁寧に解いたほうがいいのです。

さて、今回の問題の5つの選択肢も、第31回とかなり重なっていますが、主だった社会集団の類型が過不足なくまとめて出題されています。
1つ1つ丁寧に見ながら社会集団について検討してみましょう。

その前に、まず、「社会集団」の前提にある、「類型」という見方について説明しましょう。
先に挙げた問題16の「都市化」とは、一方向の時代の流れの説明であるということはわかるでしょうか。

<都市化>
農村中心 → 都市中心

コントやスペンサーといった18世紀から19世紀前半までの社会学は、近代化によって「社会」が誕生したとしたうえで、その近代化を何をもって説明するか合戦的なところがありました。コントはそれを三段階の法則なんて言って説明したり、スペンサーは社会進化論なんて言って説明したり。全部、近代化の説明なんです。

一方で、1900年前後に社会学を基礎づけた人たち(その典型がウェーバーですが)は、「類型」という考え方をしています。
例えば、農村→都市という一方向で、今の社会を説明してしまうのではなく、農村的なものと社会的なもの、どちらも今の社会にはあるのだとするんです。
つまり、農村的なもの/都市的なもの、どちらも併存している。
そこに立ち現れる社会的な課題に応じて、農村的なものが見えてきたり、都市的なものが見えてきたり。そのように考えるのです。
我々は社会の今日的な課題をはじめから「都市的な」課題として見ちゃっているがゆえに、「都市的なもの」によって今日的な課題が規定されているようにおもえてしまうのであり、そもそもは今もどちらも併存してあるのだ、と。このような考え方が類型的な考え方です。

そして、問題15の「合計特殊出生率」という課題を、都市化という一方向の時代の流れで説明することももちろんできますが、一方で社会集団という類型的な考え方から説明し理解することもできるのです。いやむしろ、そちらのほうが今日の社会学っぽいですかね。

さぁ、社会集団という類型的な考え方について少しはわかってもらえたところで、選択肢を見ていきましょう。

選択肢2、3、4、5に挙げられている概念は、それぞれ社会集団を類型的にとらえる典型です。
以下に挙げる類型のうち、前者が農村的、後者が都市的なものです。
それでいて、農村的なものが悪いとか、都市的なものがいいとか、そういう発想そのものがない。これが類型的に考えるときに大事な観点です。

<社会集団の類型>
ゲマインシャフト/ゲゼルシャフト (テンニース)※選択肢4
コミュニティ/アソシエーション (マッキーバー)
第一次集団/第二次集団 (クーリー)※選択肢2
内集団/外集団 (サムナー)※選択肢3

このぐらいは押さえておきたいところです。
もちろん、これら類型を、農村的/都市的という表現で共通性を示しましたが、それぞれ強調点が少しずれています。
そのあたりは教科書等で丁寧に確認してみてください。

で、問題16にも書いたように、古いものほど大事で応用が利くのでねらわれやすいのです。
古くて大事なものから順番にあげましたが、やはりゲマインシャフト/ゲゼルシャフトはしっかり押さえておいてください。
すると、そうなんです、結局今回も、ゲマインシャフト/ゲゼルシャフトさえ分かっていれば、正解は4で確定なのです。
残った選択肢のうち、まず選択肢5の公衆を説明しましょう。

大衆/公衆

これは、先の社会集団の類型と違って、前者は集団を否定的に見るとき、後者は集団を肯定的に見るときに使います。
その見方としては、「大衆」が、選択肢5の説明にあるように、「何らかの事象への共通した関心を持ち、非合理的で感情的な言動を噴出しがちな人々の集まり」であるのに対して、「公衆」は「主体的・合理的に判断し行動する人々の集まり」ということになります。いい悪いがはっきりしているのです。なので、ちょっと類型としての社会集団とは異なるので、問題のタイトルも「社会集団『など』」と、わざわざ、「など」をつけているのです。

さて、最後に残った「準拠集団」ですが、これが今日の社会学的には最も大事な概念と言えるかもしれません。なぜなら、これらの類型があるとして、類型を提示しただけでは、人々の行動の説明にはならないからです。都市化のように一方向で説明するのは単純。でも、類型では説明にならない。ということで、準拠集団なのです。準拠集団という概念は、「人は、実際に所属する集団ではなく、その人が所属したい、もしくは所属していると思っている集団の影響を受けるのだ」といいます。この準拠集団のような考え方を提示した人はいろいろいるのでしょうが、概念として整理したのがマートンです。そして、マートンによるこの準拠集団という概念は、今も社会現象の説明に用いられる有名な論です。(だから、第31回でも、第33回でもどちらの「社会集団」の単独問題でも「準拠集団」は出ているのです。)

正解 4

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