問題16 都市化の理論に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 フィッシャー(Fischer, C.)は、都市の拡大過程に関して、それぞれ異なる特徴を持つ地帯が同心円状に構成されていくとする、同心円地帯理論を提起した。
2 ワース(Wirth, L.)は、都市では人間関係の分節化と希薄化が進み、無関心などの社会心理が生み出されるとする、アーバニズム論を提起した。
3 クラッセン(Klaassen, L.)は、大都市では類似した者同士が結び付き、ネットワークが分化していく中で多様な下位文化が形成されるとする、下位文化理論を提起した。
4 ウェルマン(Wellman, B.)は、大都市では、都市化から郊外化を経て衰退に向かうという逆都市化(反都市化)が発生し、都市中心部の空洞化が生じるとする、都市の発展段階論を提起した。
5 バージェス(Burgess, E.)は、都市化した社会ではコミュニティが地域や親族などの伝統的紐帯から解放されたネットワークとして存在しているとする、コミュニティ解放論を提起した。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
「社会理論と社会システム」の2問目です。
1問目になる問題15では、「合計特殊出生率」に関する問題でした。つまり、ソーシャルワークを踏まえた「社会理論」を語るにあたり、今日の日本「社会」の課題を、まず冒頭の問題として提示したわけです。そして、問題15の解説で「合計特殊出生率」の歴史的変遷ならびに国際比較を知れば知るほど、単純な自然減(何もしないで、勝手にだんだん出生率が減っていく)のではなく、社会的要因があることが強く推測されるわけです。
もちろん、その社会的要因を、単純に「これだ!」などと言えるようなものを、たった1つだけで言い表すことはできません。「社会科学では言い表せない」と言ったほうがいいですかね。1つの要因だけで説明する人もいるでしょうし。ただそのような態度は社会科学的な態度とは言えません。社会科学的には、いろんなことが考えられます。
ただ、国家試験は、その要因のひとつとして「都市化」を考えているようです。だからこそ、問題15のあとに、この問題16で「都市化の(社会)理論」を聞いてきているのです。じゃあ、国家試験が「合計特殊出生率」に影響を与えるとする「都市化の理論」とは何でしょうか。
そんな観点から5つの選択肢を見ていきましょうか。
他のサイトなり、参考書なりを見ると、社会福祉士国家試験としては、この問題は「難しい問題」というレッテルが与えられているようです。
確かに、頭文で「人名」が挙げられ、それに呼応する尾文にいろんな「都市化理論」が挙げられていますので、一見すると、「人名-都市化理論」の対応関係を暗記しているかどうか、そこが問われているように思えてしまいます。
ゆえに、この5人の理論家について、全部暗記するように国家試験が求めているように思えてしまいますし、実際、それら参考書はそういう暗記を求める書きぶりをしていますね。そんなものを呼んでしまうと、社会福祉士国家試験の勉強がどうにもしんどいと思っちゃう人が多いでしょうね。
そんな解説をされると「『社会理論と社会システム』は、コントだの、ウェーバーだの、デュルケムだの、ゴフマンだの、ただでさえ人名が多いのに、こんな都市化理論のマイナーな人名とその理論まで覚えなきゃいけないのかよ」と、どんどんこの科目が嫌いになるかもしれませんね。
ただ、ちょっと待ってください。そんな風に思うってしまうのは大変もったいない!国家試験が何を伝えようとしているか、そこを丁寧に追ったうえで、必要に応じて覚えるべきところを覚えればいいのです。ですから、まず大事なのは、国家試験が何を伝えようとしているか、そこを知ったうえで、社会福祉士国家試験の勉強はつまらないのかどうか、考えてみましょうか。
まず、選択肢に上がっている5人を等しく全部同じぐらい大事だ、というと覚えにくいでしょうから、敢えて絞ってみましょう。
全員が教科書に載っているとはいえませんが、「ワース」と「バージェス」が載っていない教科書はありません。ですから、「ワース」と「バージェス」は最低限覚えたいところです。
では、どの教科書にもこの二人の都市化理論が載っているのはなぜでしょうか?
それは、「ワース」と「バージェス」は、都市化の理論を、社会学の観点から都市について探求した「シカゴ学派」と呼ばれる集団の最初期の人たちだからです。最初期だから大事というのは、例えばマックス・ウェーバーが国家試験で狙われやすいのも、今でいう社会学理論をつくった最初期の人がマックス・ウェーバーだからという理屈と同じです。
じゃあ、マックス・ウェーバーしかり「シカゴ学派」のこの二人しかり、なぜ最初期だと狙われやすいのですか?
それは、あとから出てくる理論であればあるほど、応用が利きにくいからです。
「新しい理論であればあるほど、理論として正しく、使い勝手がいい」と勘違いする人が多いですが、逆です。新しいものであればあるほど、使える場面や時代背景が限定されがちで、理論として使いにくいものなのです。これは理論だけではなく、具体的なモノだってそうですよ。世代を超えた使いやすさを考えると、古くからあるモノのほうが使いやすかったりするわけです。
ただし、社会理論の話で、「コント」と「スペンサー」じゃあ古すぎるんです。なぜでしょうか。コントやスペンサーの生きたフランス革命直後の19世紀前半は、まだ都市と言えるようなものが成立していませんでした。それゆえ、この二人の理論は理念的に過ぎて、壮大な話になっていて、都市に生きる私たちにとって使い勝手が悪いのです。
一方、ウェーバーが著作をたくさん書いたころや、シカゴ学派が出てくるころは、1900年前後という時代です。このころに、今日の我々の生(=ライフ)というあり方に強い影響を与える「都市」というあり方が成立しました。だからこそ、これらの人の著作や理論である社会科学は、今という時代でも使い勝手がよく、だからこそ、都市の時代に多大な影響を与えてきたんです。
※ただ、インターネットの世界が拡大し、「都市」というあり方が大きく激変したとしたら、ウェーバーや「シカゴ学派」は、コントやスペンサー同様に、顧みられることはなくなるのかもしれませんが。それはいつの時代でしょうね。もしかしたら、そう遠くない時代なのかもしれませんが。
ということで、今日に生きるソーシャルワーカーである私たちは、まずは「ワース」と「バージェス」は押さえたい。
次に、「フィッシャー」の「下位文化理論」ですが、これも大事です。
ただ、その大事さは「都市化の理論」というよりも、逸脱理論のなかで大事な位置づけと理解したほうが整理しやすいですし、教科書でも逸脱理論として出てきます。
これは、第33回問題21で出てきますの、そこでやりましょう。
残った「ウェルマン」と「クラッセン」、それぞれの理論は、上述の二人の理論(+フィッシャーの下位文化理論)をしっかり押さえた後、余裕があれば覚える、といったところでしょうか。それぐらいのメリハリをつけていいと思います。
それが証拠に、「ウェルマン」と「クラッセン」は、覚えていなくてもこの問題は実際に正解を導けるように作られています。
いや、もう少しいうなら、国家試験の過去問を論理を踏まえ丁寧に検討してみると、都市化の話なら「ワース」と「バージェス」ぐらいしっかり押さえておけば、必ず解けるような問題しか出ていません。(第33回の150問の問題を解き終わったころに、機会があれば確認してみましょうか。)
さて、今回の5つの選択肢は、正解以外はすべて入れ替えになっています。それもコンパクトに各論者の説がまとまっていますので、以下でまとめてみましょう。
〇戦前の理論
都市では人間関係の分節化と希薄化が進み、無関心などの社会心理が生み出される
→都市とは単に人口が密集するだけではなく、農村と違う生活様式を生み出し、結果、人間関係もそれまでとは異なる様式になる、というモデル。
都市の拡大過程に関して、それぞれ異なる特徴を持つ地帯が同心円状に構成されていく
→最初期の都市は工場が中心に展開するも、拡大していくにつれ、工場近くの都心部に貧困者が住み、郊外になるにつれて富裕層が住むようになる。このように、都市化が進むにつれて、工場を中心に住民層が層化していく、というモデル。
都市化した社会ではコミュニティが地域や親族などの伝統的紐帯から解放されたネットワークとして存在している
→交通・通信手段が発展し、物理的距離が遠くても親密な人間関係の継続が容易になるため、かつての「コミュニティ(=伝統的紐帯による)」も空間的共有という制約から解放されるのだ、ということで、彼の理論はコミュニティ解放論と呼ばれる。
大都市では、都市化から郊外化を経て衰退に向かうという逆都市化(反都市化)が発生し、都市中心部の空洞化が生じる
→都市の発展について、その拡大のみならず限界を超えると都市が縮小し途絶えていくと指摘。都市化→郊外化→逆都市化→再都市化を繰り返すという生態学的なモデルを提示した。
ということで、都市の理論としては、ワースのアーバニズム論と、バージェスの同心円地帯理論ぐらいは覚えたいところです。
すると、正解は2でおしまいになります。
そうなのですが、ここからがちょっと大事なところ。
これらすら知っていなかったとしましょう。
その場合、何に〇をつければいいでしょうか。
鉛筆を転がすよりは、よい方法を提示してみたいと思います。これは国家試験が論理的に構成され作られているからこそ可能なやり方です。
この問題のタイトル「都市化の理論」は、その前の問題15につなげて理解すべきだと、冒頭で書きました。
すると、「合計特殊出生率」が下がっていく、そのような現象(問題15)を、問題16では「都市化」を通じて理論的に説明しようとしている、そう読めるわけです。
であれば、合計特殊出生率が下がっていく原因として、都市化を説明しているそんな理論に国家試験は〇をつけさせようとしているに決まっています。
そのような観点から選択肢1~5を読み直すと。
前近代の農村の時代の人間関係と近代以後の都市での人間関係は、生活様式の変容とともに大きく異なっていったわけです。すると、親族とともに田畑を耕すために一人でも多くの子どもを産み育てようという前近代的な意識から、自分たちの収入や生活様式を踏まえて産む子供の数をコントロールするようなそんな意識に変化していきます。結果として、出産率は都市化が進むほどに減っていったわけです。このように、ワースのアーバニズム論からの説明が一番しっくりくるじゃないですか。
ということで、選択肢2を選ぶ、なんてやり方もあるでしょうね。
もちろん、暗記して覚えていれば、正解は2で即おしまい、なのでしょうけれども。論理的に読み込めれば、正解を導くこともできるような作りを国家試験はしているよ、という説明でした。
正解 2
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