ソーシャルワークから見た「社会的関係において生じる現象」

02心理学理論と心理的支援
今回のポイント
論理的な思考に沿って問われていることを知る
「心理」がソーシャルワークで問われる由縁「社会」との関係でとらえなおす

問題10 社会的関係において生じる現象に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 初対面の人の職業によって,一定のイメージを抱いてしまうことを,同調という。
2 相手に能力があると期待すると,実際に期待どおりになっていくことを,ハロー効果という。
3 頻繁に接触する人に対して,好意を持ちやすくなることを,単純接触効果という。
4 外見が良いことによって,能力や性格など他の特性も高評価を下しやすくなることを,ピグマリオン効果という。
5 集団の多数の人が同じ意見を主張すると,自分の意見を多数派の意見に合わせて変えてしまうことを,ステレオタイプという。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より

問題8ではマズローの人間の欲求階層から、一見すると人間はその場その場での欲求や動機づけによって生きているように見えますが、誰しもが自己実現という成長欲求をもっていることを示してくれました。(選択肢4「自己実現の欲求は,成長欲求」が正解。)

それをふまえ、自己実現をめざし生きる人間を理解するためのツールとして、問9では、人間の知覚の特性を知りました。知覚とは、外界を客観的に把握するものだけではなく、先に外界を全体としてまとめ上げるようなそんな知覚もあるのです。(選択肢1「知覚の体制化」が正解)

問題が途切れているのではなく、論理的な流れがあること、わかるでしょうか。それも、五肢の何に〇をつけさせるか、それを通して、なぜ「心理」をソーシャルワークで学ぶのかを国家試験が伝えようとしていることがわかるでしょうか。
それらふまえての問題10です。

この問題の選択肢にあるピグマリオン効果や同調などは、過去10年間で2回出題されています。

参考 過去10年の過去問で「ピグマリオン効果」等につけられたタイトル
第33回(今回)タイトル「社会的関係において生じる現象」
→同調/ハロー効果/単純接触効果/ピグマリオン効果/ステレオタイプ
第30回 タイトル「集団における行動」
→社会的ジレンマ/ピグマリオン効果/傍観者効果/同調/コーシャス・シフト
第25回 タイトル「心理的効果」
→ピグマリオン効果/スリーパー効果/ハロー効果/アナウンスメント効果/ブーメラン効果

ピグマリオン効果はこの3回すべてで選択肢にあるので、これらを「ピグマリオン効果ら」と呼んでみましたが、それらをまとめ上げる問題のタイトルが3回とも異なることに気づいたでしょうか。これは国家試験がぶれているのでしょうか?そういう見方をしたら、ただただ国家試験を非難し、五肢択一という形式を非難し、資格取得のためいやいや我慢して暗記する、という勉強以上にはなりません。国家試験がソーシャルワークについて伝えようと工夫しているんだ、そういう見方を敢えてしてみましょう。すると、暗記の五肢択一の勉強とは異なる見えが、そこに広がります。

つまり、ピグマリオン効果らのこれらのワードは単独では意味を成しえない、ただの人間の傾向にすぎません。そこにどのような意味づけを行うのか、その意味づけの仕方によって、これらの傾向をソーシャルワーカーが知るべき理由が明らかになるのです。

この問10の前の、問8問9とで何が問われていたかは、この開設の冒頭で確認しました。自己実現を目指して、知覚を使うも、知覚単独では自己実現は不可能です。知覚の背後で働くものこそが社会的関係です。そのような見方を踏まえて、5つの選択肢を眺めてみましょう。すると、自己実現を目指し生きるためには、社会関係として、人間にはこれが必要だってもの、そこに国家試験は丸をさせたいにきまっているじゃないですか。そんな選択肢がありませんか。それが正解なのです。

選択肢1 ×  選択肢5 ×

これはひっくりかえせば正解になるパターンですね。
つまり、
「ステレオタイプ」=初対面の人の職業によって,一定のイメージを抱いてしまうこと
「同調」=集団の多数の人が同じ意見を主張すると,自分の意見を多数派の意見に合わせて変えてしまうこと

選択肢2 ×  選択肢4 ×

こちらも同様で、ひっくりかえせば正解になるパターンです。
「ピグマリオン効果」=相手に能力があると期待すると,実際に期待どおりになっていくこと
「ハロー効果」=外見が良いことによって,能力や性格など他の特性も高評価を下しやすくなること

選択肢3 〇(わからなかったとしても〇に近い△にさえできればOK)

先の四つの用語は知っていても、「単純接触効果」という用語は聞いたことがない、という人が少なくないかもしれません。おそらくそれは受験生以上に、国家試験問題作成者がよく知っています。でも、国家試験問題作成者は伝えたかったのです。何を?「『単純接触効果』を」ではありませんよ。自己実現を目指し生きていく人間を支える、そんなソーシャルワークにおいて、「頻繁に接触する人に対して,好意を持ちやすくなる」というこの傾向(=「単純接触効果」)が、知覚を補助し支える「社会的関係」って観点からするととても大事なんだってことを。

「この問題は、基本的な心理学用語である選択肢1と5、選択肢2と3がひっくり返っていることに気づいて、残った3が正解だよ」っていえば、五肢択一必勝法として何か語った気になるかもしれませんが、私はそう思いません。そんな見方は国家試験が伝えようとしている、そんな対話を拒絶する態度です。

どんな文章でも、伝えたいことがあって、そこに意味が生じます。国家試験の五肢択一は単なる〇×ゲームではなく、ソーシャルワークとは何かを伝えようとしています。そこさえわかっていれば、150問度の問題でも、正解はおのずと導かれるのです。

正解 3

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