ソーシャルワークから見た「誰もが生きやすい地域へ向けての社会福祉士の対応」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
相談援助系科目の最後の問題であることを意識する
・相談援助という概念を踏まえ、問題作成者はどのような形で問題を閉じたいか考える

問題118 事例を読んで、Q市社会福祉協議会のAソーシャルワーカー(社会福祉士)の対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Q市社会福祉協議会で民生委員協議会の支援に従事するAソーシャルワーカーは、市内の地区民生委員協議会のB会長から相談を受けた。最近、民生委員協議会の定例会で、個別のケースで対応に困る事例が増えていることや、市からの地域活動への協力依頼が多く負担が重いという意見が出てきており、会長としてどのように対応すればよいか悩んでいるとのことだった。
1 困難な問題を抱える家庭の個別対応については、住民懇談会で広く協議することを提案する。
2 どうすれば負担が軽減できるか、上部団体であるQ市社会福祉協議会へ解決を委任する。
3 地域活動に対する民生委員協議会の関わり方については、自治会・町内会で計画を立てることを促す。
4 市の担当職員を定例会に呼び、市からの協力依頼についてどうすれば負担が軽減できるか協議する。
5 負担感を訴える民生委員の代わりに、新たに民生委員になれる人を探す。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題91~97は「相談援助の基盤と専門職」、問題98~118までは「相談援助の理論と方法」、この二つを合わせて、私は「相談援助系科目」と呼んでいます。

そもそも相談援助系って何の科目なのでしょうか。その応えは、新カリキュラムでのこれら科目の名名称が、指し示してくれています。

【現行】相談援助の基盤と専門職→【新カリ】ソーシャルワークの基盤と専門職
【現行】相談援助の理論と方法→【新カリ】ソーシャルワークの理論と方法

そうです。問題作成者は、「相談援助」なんていう社会福祉士及び介護福祉士法における社会福祉士の定義のなかで、社会福祉士がなすことと定められている「相談援助」なんてワードを使ってはいるものの、結局のところは、ソーシャルワーク全般の見方考え方を問うている、そういう科目なのです。ですから、これら科目こそが社会福祉士の中核科目であり、だからこそ問題数もやたら多いのです。

「中核科目がこんなに易しくていいのか?」

なんて思う人もいるのでしょう。確かに相談援助系科目は他科目に比べて易しく得点源である科目です。しかし、だからこそ中核科目なのです。

もし皆さんのなかに「難しい科目ほど中核」という考え方があるならば、それこそが受験勉強で作られた見方にすぎません。社会科学は、いや科学と名の付くものはすべて、その見方・考え方は単純で分かりやすくシンプルなものなのです。

それはそうです。その科学の見方・考え方を示すだけですから。その見方・考え方がなぜ正しいなんて言いませんから。だいたいにおいて、どの科学の見方・考え方が正しいなんて言い出す人がいたら、その時点で、その人は科学者ではありません。それぞれの科学にそれぞれの見方考え方がある、それだけです。そしてその見方考え方は極めて論理的かつシンプルなはずなのです。その論理を踏まえたうえで、演繹的に丁寧に論理を展開し、そして制度につながっていくのです。

ところが、その論理を追うことすら面倒になると、「とにかく制度さえ暗記すればいいんだ」という非科学的な態度をしてしまうのです。受験勉強なるもののほとんどがそのような態度になっていることを、社会科学の末端にいる研究者として、私は大変残念に思います。

社会福祉士という資格が、ソーシャルワークという社会「科学」のスペシャリスト資格であるのならば、この「相談援助系科目」28問こそが、全150問の中の中核なのです。

そして、この問題は、そんな中核科目の最後の問題だということです。問題作成者は社会科学者です。である以上、何となく5つの文章を選択肢として並べ、何となく、そんな問題を150問並べているのではありません。順番にもこだわっているのです。論理的な展開で、ソーシャルワークの見方考え方を皆さんに伝えているに決まっているのです。

じゃあ、そんな論理を踏まえた問題作成者なら、相談援助系科目の最後の問題にどんな問題を持ってきますか。もちろん、今までの問題を踏まえたうえで、のことです。

さぁ、事例適切問題で来ましたね。おそらく具体的な現場で抱えがちな、今日のソーシャルワークの難問の典型例が出されるのではないか、なんて想像できませんか?

そんな想像がついていると、この事例を見た瞬間に、ニヤッとするのです。ニヤッとして、こう思うのです。「私も社会福祉士になりたい!」と。

<確実に正解に導ける事例問題の解き方>
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
1%でも可能性があれば残す!
残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける
(優先順位は問題文から読み取る:原則は「事例の後、早くやる順」)

①100%間違いの選択肢にだけ×をつける

100%×の選択肢はどれですか?
私は、選択肢1、2、3を選びました。

選択肢1は即×をつけられるでしょう。ただ、どのような根拠で×にするか、そこに私はこだわりたいですね。なにせ最後の問題ですから。
個別案件を広く競技なんてしてはプライバシーの観点からおかしい、なんてことで×っていう人がほとんどでしょうね。まぁ、それでも×は×なので構わないのかもしれませんが。でも、私は、個人情報保護等の法律とか制度といった観点からこれを×にはしたくないんです。最後の問題で問われるのは、ソーシャルワークの見方・考え方です。
ソーシャルワークとはまず何より「関係性」から始まるのです。困難事例の個別案件を広く協議し多くの人に知らしめたところで、じゃあ、そのケースとどうやって繋がれるというのですか。

だから×なのです。っていう×の付け方はどうでしょうかね。私ならそう考えます。

選択肢2は、何となくで×にする人がいますが、制度のことなので、しっかり根拠をもって×にしたいところです。じゃあ、民生委員はどうやってなるのでしたっけ?

民生委員の任命は?
都道府県の推薦 → 厚生労働大臣の委嘱

上部団体という言い方はしっくりきませんが、あるとしても、都道府県もしくは国(厚生労働大臣)になりますよね。選択肢2で上部団体として提示されているのは?市町村社協ですね。
ということで×です。

選択肢3も、何となくでは×にできるのでしょうけれども、何を根拠に100%×にしますか?こういうところ、こだわりたいですね。何となく×を正当化するようなあり方で「社会福祉士だ」と名乗ったところで誰が何を信じるのですか。
これ、選択肢2を踏まえた文章ですよ。つまり、民生委員に上部団体なるものがあるとしたら、都道府県にしても国にしても「行政」になります。一方で、自治会や町内会って何ですか?行政からの命令によってある団体ですか?違いますよ。自治会や町内会を「住民主体の自治組織」っていうんです。

自治会・町内会=住民主体の自治組織 (⇔ 行政)

行政とは繋がっているとはしても、全く別の論理によるものなのです。だとすると、行政が偉そうに計画を促すとか、そんなことそもそも全くの筋違いもいいところなんです。なんで筋違いですか?そもそも民生委員制度とは行政の内部にある制度である以上、そこでの問題は行政が主導し、行政の内部で処理すべきものなのです。

②残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける

選択肢4と5が△で残りました。

さて、どちらを選びますか。もちろん、選択肢4を何となく選んで、正解という人がほとんどでしょう。その程度に、この科目の問題は易しいのです。しかし、易しいからこそその根拠をしっかり言語化できるかどうか、そここそが社会福祉士になった後のあなたが市民から求められるものなのです。

さぁ、どう応えますか?いや、こんな事例の大概のケースでは、選択肢5のように新しい民生委員をみっけてチャンチャンですよ。実際にはね。そこに、「それはおかしいぃ!」とだけ叫ぶ社会福祉士が入ってきたとて、今までのやり方すら知らない者が偉そうに社会福祉士と名乗って出てきて、ただただ「おかしいおかしい」というだけでは誰も見向きもしません。

この問題は、先の問題から連続しての問題ですから、先の問題117を見てみましょうか。

「事例を読んで、P市社会福祉協議会のKソーシャルワーカー(社会福祉士)によるソーシャルアクションの実践として、適切なものを2つ選びなさい。」
ソーシャルワークの見方・考え方の1つとして、ソーシャルアクションがあります。
ソーシャルアクションとは?
ものすごくわかりやすく端的にいうなら「社会を変える」ってことです。しかし、当然ながらそんな簡単に社会を変えられるんだったら、誰だってやってますし、「社会」科学なんて科学だっていりません。それに対して、社会に比べたら、個人だったら変えやすいかもしれませんね。例えば、「民生委員は負担が多すぎる」とぶーぶーいう、そんな人を変えちゃうとかね。
そうなんです。
社会はそうそう変わらないがゆえに、問題となってる個人を変えて、やり過ごすなんてことは、社会福祉現場でさえも、ざらにあるわけです。
じゃあ、そんなやり過ごしがソーシャルワークと言えますか?もちろんそうではない、と問題作成者はいいたいわけです。だって、問題作成者は、日本のソーシャルワークの第一人者の研究者たちです。社会福祉士になって現場へ出るあなた方へ、そんなやり過ごし方を覚えて現場に行ってほしいなんて、思っているわけがありません。
この第33回の国家試験の時点で、新カリキュラムへの移行はすでに始まっていました。
そんな新カリキュラムの「ソーシャルワーク系」で新たに現れた項目に、「ソーシャルワークのミクロ・メゾ・マクロレベル」があります。
ソーシャルワークはソーシャルアクション、つまり「社会を変える」んだから、マクロ推しだ!なんて思う人もいるでしょう。いやいや、結局は現実ありきであって、実際に変えられるところから積み重ねていくんだから、この場合の人材を変えるみたいな、ミクロ推しなんだ、なんていう人もいるのかもしれません。
近隣の社会諸科学には、「ミクロ⇔マクロ」「個人⇔社会」という対比で、理論を精緻化している、そんなものがたくさんあります。この対概念はなかなか便利であり、なかなかに越えがたいものです。
そこに対して、近年の日本のソーシャルワークは、ミクロ・メゾ・マクロという三つの水準を使いながら、どれかを推すのではなく、どれも眺めつつ、実践する、そんなスタイルを模索し始めたように思われます。ただ、どれも推すとはいうものの、ミクロ⇔マクロというどこにでもある見方に対して、メゾを入れることでその固有性を確保しようとしているわけですから、ソーシャルワークはメゾ推しといっても過言ではないでしょうね。
メゾって何でしょう。
それこそ、この問題の選択肢4なんかはメゾ推しそのものです。
市の担当職員っていうのは、先にあげた民生委員制度をやってる行政の機関なわけですよね。そんな行政の職員を呼んで何をするんですか。いっしょに考えるんです。すぐに民生院制度を抜本的に変える、なんてことではありません。そんなの無理です。でも、民生委員制度の意義は感じている。そんな者同士が、この制度を新しい社会に対応すべく維持していくためには、民生委員の多くが感じている負担をどうしたら軽減できるか、いっしょになって考えるんです。
これが社会を変える第一歩だととらえるのが、ミクロ・メゾ・マクロレベルのソーシャルワークと言えるのかな、と思います。
詳しくは、新カリキュラムへ、ということになるのでしょうかね。
正解 4

 

【お勧め関連本】
ソーシャルワークの「ミクロ・メゾ・マクロレベル」なんて項目。
これは、新カリキュラムの項目に新しくできたものです。
新カリキュラムからできた「ソーシャルワークの基盤と専門職(社会専門)」って科目に新たに入った項目ですね。
ただ、少なくない教科書が、その項目はジェネラリストソーシャルワークを適宜まとめただけのような記述にとどまっている印象を受けます。
そうではない説明をしてくれるものとして・・・

片桐正善,2023,「第6章 ソーシャルワークのミクロ・メゾ・マクロレベル」『新社会福祉シリーズ7ソーシャルワークの基盤と専門職(社福専門)』弘文堂

(手前味噌で恐縮ですが)

 

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