・障害者の実態が近年の国家試験でやたら狙われているのはなぜか考えてみよう。
・障害者手帳取得者のキーワード「権利意識の拡大」という概念を知ろう。
問題56 厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」及び「社会福祉施設等調査」(2018年(平成30年))に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 65歳未満の障害者手帳所持者で、「特に生活のしづらさは無かった」と答えた者は半数を超えている。
2 就労移行支援サービス、就労継続支援(A型)サービス及び就労継続支援(B型)サービスのうち、利用実人員が最も多いのは就労継続支援(B型)サービスである。
3 65歳以上の障害者手帳所持者の「障害の原因」は、「事故・けが」が最も多い。
4 障害児通所支援等事業所のうち、利用実人員が最も多いのは、児童発達支援サービスである。
5 65歳以上の障害者手帳所持者の3分の2以上が、介護保険法に基づくサービスを利用している。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
かつては調査を絡めた障害者の実態に関する問題の出題は5年に1回程度でした。なぜなら、国レベルの障害者の実態調査がなされるのが5年に1回だからです。その調査の結果が出た年の翌年に出題されるだけでした。(その典型が第26回問題56)
ところがです!!
5年に1回の調査(=「生活のしづらさ調査」)の最新の結果が出た翌年の出題である第31回問題56で止まらず、 翌年の第32回問題56、そしてなんと今回第33回問題56と3年連続でこの調査による障害者実態の問題が単独問題で出題されました。
すると参考書とか受験対策講座的なものなんかは「新傾向だ!」とか騒いで、ひたすらこれら調査についてページを割いて暗記させるのかもしれませんが、ちょっと待った!
そんなことする前に、なぜ問題作成者は調査に基づいた障害者実態を3年連続で出題しているのか、その意図を読みとりましょう。
何を大事と思って国家試験問題作成者はこんなに連続して同じ調査について出題ことしてるのでしょうか?
障害分野における「生活のしづらさなどに関する調査」がなぜ大事かってコトにも関わります。ただ、ちょっと長くなりそうなので、教科書やネット上で調べてもらいますか。
ただ、それら知らなくても、今回の問題は簡単です。とはいえ、来年以降も調査踏まえた実態に関する問題が出るか脳性もあります。今回の問題を丁寧に分析し、来年以降も国家試験問題作成者にしっかりレスポンスするように答えを導いてみましょう。
選択肢1 ×
65 歳未満と65歳以上では、日常生活に対する障害者の意識が異なってきます。
なぜなら、65歳未満に比べると、65歳以上は身体障害者手帳の取得条件を満たしやすいからです。昨今は権利意識が拡大し、使える制度は何でも使って、この世をサバイブしていこう!って、そういう発想が日本でさえ強くなっています。すると、日常生活にそれほどしんどさを感じなくても、取得できるのであれば障害者手帳を積極的に取得するようになってきています。
その契機は、1990年代以後の長期不況と、2000年代以後の契約制度の導入でしょうね。
一方、65歳未満で障害者手帳を所持しているような人(=先天的な障害の割合が高い)の障害者手帳所持の動機づけは、日常生活のしんどさを制度上で埋めるため、ということが多くなります。
(「障害者だから生活はしづらいはず」みたいな、漠然とした印象だけで考える思考はソーシャルワーカーである以上やめましょうね。)
選択肢2 〇に近い△
調査結果による実態だから、敢えて〇にせず、〇に近い△とはしましたが、この選択肢は一発で〇にしておしまいでもよいぐらいに、典型的な正解の選択肢です。
一般就労に向けた訓練ではあるが2年限定という条件あり。就労訓練ゆえ65歳未満対象。
就労継続支援(A型)
雇用契約を結ぶという特殊性があり、期間も限定なし。雇用ゆえ原則65歳未満対象。
就労継続支援(B型)
期間が限定されず、年齢も原則問わない。
だから、2年限定の就労移行支援よりも、期間の限定なしの就労継続支援B型の方が利用者は多いのは当然です。
また、就労継続支援B型は就労継続支援A型のような雇用型ではなく、非雇用型です。障害者は雇用契約を結ぶのが困難な人の割合が相対的に高いですから、就労継続支援B型のほうが就労継続支援A型よりも利用者が多くなって当然です。
ということで、この3つで就労継続支援B型が最も利用人数が多くのなる、というわけです。
現場知ってる人なら感覚ですぐ就労継続支援B型ってわかるとは思います。
ただ、そんな感覚がなくても、それぞれのサービスの最低限覚えておかなければならないことさえ知っていれば、論理的に考えても正解は導けます。
選択肢3 ×
選択肢1の解説にも書きましたが、高齢者による障害者手帳所持は、「権利意識の拡大」によるところが大きい、といえます。
要は、急に障害が生じるのではなく、高齢に伴い、いつのまにか法律上の障害の条件を満たしてしまうのです。したがって、生活も急激に変化するのではなく、高齢になるに伴い、徐々に変わっていくのです。
ただし、今日の高齢者は独り暮らしや夫婦暮らしが多く、家族という名の介護者不在であるケースが増加しています。意やほとんどと言ってもいい状況です。
すると、使える制度は使えたほうがいい、そう判断する割合が、本人もしくは別居してる家族等で高くなるのも当然です。
ということで、障害の条件を満たせば、本人が所持を望むのみならず、同居しない家族、地域の行政やソーシャルワーカーが積極的に障害者手帳を所持させようとするのです。
選択肢4 ×に近い△
「障害児通所支援で最も利用人数が多いのは何?」と聞かれたら、当たり前ですが、その前提として、障害児通所支援サービスの全てを知っていなければ答えようがありません。
つまり、この選択肢は「障害児通所支援ぐらいは全部知っておいてね」とあなたに伝えているのです。
さぁ言えるかな。
♪ラララ言えるかな?ラララ言えるかな?
「児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援」
♪障害児通所支援たちがありがとう!おぼえてくれてありがとう!
なんてとこですかね。w
でも、このへん詳しい人なら(=やたら暗記してる人なら)、こんな質問がくるかもしれません。
「児童発達支援は、医療型児童発達支援と分けないのですか?」
そうですねぇ。
医療型児童発達支援と、児童発達支援、この問題作成者が分けているかどうかまではこの選択肢ではわかりませんが、ただ、数字的には医療型児童発達支援なんて無視していいものになるってことは論理的に考えればわかるはずです。
なぜなら、障害の分野で「医療型」なんてつくサービスは例外的なものだからです。というのも、「医療型」という名称がつくってことは、「障害への支援(介護)」と「医療サポート」と両方が常時必要というケースであって、そういうケースは、数字上は圧倒的に少ないから。(障害福祉サービスの「療養介護」なんかもそうですね。)
だから、全体の傾向を数字で見るっていう場合には、「医療型」なんて名称がつくものについては無視していいのです。
※いいですか、ここで私が言っているのは「全体の傾向を数字で見る場合は」ですよ。ケースとして考えるときに「医療型」の人なんて無視していい、なんてこと言ってないですからね。誤解なきよう。
では、この3つのサービスの、利用数に関わるような特徴は?
児童発達支援はほぼ未就学児の利用に限定されるんでしたね。つまり0歳~6歳までです。
保育所等訪問支援だって、「保育所」と言ってるように、保育所や幼稚園がメインでこれまた0歳~6歳に限定。
さらにいうと、保育所等訪問支援は、ワーカーのほうから一人の利用者のために保育所等に訪問するのでしたね。だから、利用者が複数集まって成立する通所サービスに比べると、ケースそのものが少ないだろうことも想像されるでしょう。
ということで、残った放課後等デイサービスの特徴を考えると、学齢期の6歳~18歳(=年齢層が児童発達支援の2倍!)まで開かれていて、かつ、対象児童が一箇所に集うことで成立する典型的な通所施設サービスだから、そりゃ利用者数は、前二者に比べて多くなるのは当然です。
選択肢5 ×に近い△
65歳以上の障害者手帳所持者って言われて、どんなイメージがわきますか?
ただ「介護保険法に基づくサービスを必要とする」という時点で、精神障害者保健福祉手帳を所持する精神障害者は関わってきにくいので、身体障害者手帳と療育手帳、この二つで考えてみましょう。
65歳になる以前から、身体障害者手帳や療育手帳を所持している人もそりゃいます。
ただ、この選択肢は「人数」の話に焦点化しています。つまり、「人数」って観点だけから考えると、選択肢1や選択肢3の解説からもわかるように、65歳以上になると「自分が高齢になった結果、身体障害者の条件を満たしたから身体障害者手帳を取得した」というケースが急増するです。
→65歳以上が8割弱
だから、「人数」という観点では、65歳以前から障害者手帳を持っている人の人数なんか無視していいのです。
65歳以上の障害者の数字的な傾向は、65歳すぎてから障害者手帳を取得する層に引っ張られてしまうからです。
それでいて、介護保険サービスを使う層ってどのあたりですか?
だいたい80代以上ですよねぇ~。60代70代では介護保険サービスを使うにはまだ若いのです。
「65~74歳人口」(前期高齢者)「75歳以上人口」(後期高齢者)なんて分け方がありますが、介護保険を具体的に使うようになるのはやっぱり後期高齢者です。さらにいえば、人口的には、前期高齢者と後期高齢者はほぼ同じぐらいっていうのは知ってなきゃいけない知識です。
この選択肢を考えるには、もう一つ知識が必要です。
介護保険サービスは80代ぐらいからじゃないと具体的には使わないとしても、障害者手帳は条件さえ満たせば60代だろうが70代だろうが取得するのです。
なぜなら、障害者手帳所持者には介護とは別に税金の優遇とか含めた、いろんな優遇政策があるから。だから年齢に関係なく身体障害者の条件を満たせば高齢者は取る傾向がここ10年ぐらいで顕著になっています。これが「権利意識の拡大」ってやつです。
以上の知識を総合すると、論理的に考えて、65歳以上の障害者手帳所持者の三分の二以上が介護保険サービス利用しているなんてありえないのです。
ということで、選択肢2と選択肢4と選択肢5は△で残しましたが、唯一、〇に近い△の選択肢である選択肢2を〇に昇格さえて、これで正解。
正解 2
なんて疑問がこの解説文を読んで頭に浮かんだ人、いることでしょう。実際のところ、この国家試験を本番で解いた当時の学生は、「まー、放課後等デイサービスだろうな」という、なんとなくぐらいで、×にした者がほとんどだと思います。
もちろん、それでかまいませんし、実際それで正解は導けます。
ただ、その「なんとなく」を論理的に説明ができないのであれば、根拠なき「なんとなく」がわかる人や、もしくは3つのサービスで放課後等デイサービスが最も利用者が多いと丸暗記してる者がソーシャルワーカーに適してるってことになってしまいます。
確かに、「なんとなく」で通じる人や丸暗記してた人であれば、この選択肢を×に導けることでしょう。ただ、私がこんな長々解説を書いているのには理由があります。
結果を丸暗記なんかしてなくても、そして「なんとなく」なんて根拠なきものが頭ではたらかなくても、さらにいうと、これら3つのサービスの詳細な特徴なんて知らなくても、大枠さえ知っていれば、この選択肢の一文は論理でしっかり×が導かれるように作られているってことです。
そこに驚いてほしいのです。
問題作成者は、それだけ丁寧に国家試験を作ってるのです。そのへんの模試とは比較にならないぐらいに。これだけの問題作るには時間も人数も膨大にかかります。単なる〇×の一問一答ではなく、これだけ丁寧な五肢択一の問題を33年一貫して作り続けているんです。国家試験では、そんな問題作成者たちは、もっと言うと33年もの積み重ねのあるこの国家試験の過去問たちは、この試験を受験する者たちに何を伝えようとしてると思いますか?
なーんてことを考えてもらえると、国家試験作成にかかった者たちは心底喜ぶだろうなぁ~。