ソーシャルワークから見た「社会保障給付等の事例」

07社会保障
今回のポイント
老齢基礎年金の基本的な受給要件を押さえる
雇用保険の種類を押さえる

問題54 事例を読んで、Gさんが受けられる社会保障給付等に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Gさん(35歳、女性)は民間企業の正社員として働く夫と結婚後、5年間専業主婦をしていたが2019年(令和元年)に離婚し、3歳の子どもと二人で暮らしている。飲食店で週30時間のパートタイムの仕事をしており、雇用保険の加入期間は1年を過ぎた。しかし、店主の入院により飲食店は営業を休止し、Gさんは休業を余儀なくされている。
1 Gさんは、婚姻期間中の夫の老齢基礎年金の保険料納付記録を分割して受けられる。
2 Gさんが児童扶養手当を受給できるのは、子が小学校を卒業する年度末までである。
3 Gさんが母子生活支援施設に入所した場合、児童扶養手当を受給できない。
4 Gさんは、休業期間中の手当を雇用保険の雇用継続給付として受給できる。
5 Gさんが解雇により失業した場合、失業の認定を受けて雇用保険の求職者給付を受給できる。

社会福祉国家試験 第33回(2021年)より解説

第33回の「社会保障」では、問題52に引き続き、事例問題が2回出ていますね。ただ、そう珍しいという感覚も私にはありません。「社会保障」では事例問題は作りやすいのです。事例にして給付条件を聞くのは「社会保障」の定番問題とすら言えます。

この事例問題は、「店主の入院を理由に飲食店の営業休止」としています。この第33回の問題を作ったのは、2020年の夏ごろでしょうから(2月の国家試験は前年の夏ごろに作成されていると推測されます)、まさしくコロナ騒動下でした。コロナ騒動下で作られた問題なのです。そして、この騒動がそう簡単に収まらないこともあの時点で大いに推測がついていました。

この事例は、2019年に離婚し、一年経て、2020年に(店主都合ではあるものの)休業ですから、まさしくコロナ騒動下を想定したものと言えます。

ということで、理由はコロナ騒動から敢えてズラされていますが、時流に乗って、母子家庭の休業中の生活保障がどこまで制度上保障されているのか、なんてことが聞かれているわけです。

ということで、選択肢を1つずつ見ていきましょう。

選択肢1 ×

一見すると、「離婚時の年金分割制度」について問われているように見えます。ですから、出版されている過去問解説集でも、そこが問われていると断言しているものもあるようです。

ただ、そういう見方でこの選択肢の解説をされてしまっては、それを読んだ人は「離婚時の年金分割制度」について「国家試験合格のため細かいところまで覚えなきゃ」と思ってしまうことでしょう。

勉強をするにあたって大事なのは、この選択肢で国家試験が何をどこまで聞いていて、どの程度知っていれば、これが×と確信もって言えるかどうか、です。

選択肢は、老齢基礎年金について聞いているのです。

老齢基礎年金とはどのような場合にもらえる?
国民年金加入者が支給要件である65歳以上になったとき
国民年金は誰が加入?
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方はすべて国民年金に加入する

ただし、老齢基礎年金をもらうためには加入だけではなく保険料を納入しなければなりません。保険料の納入の仕方によって、第1号/第2号/第3号被保険者に分けられます。

<国民年金の保険料の納入>
第1号被保険者:国民年金の保険料を自分で納める
→自営業者、農業や漁業に従事している方
第2号被保険者:国民年金の保険料を直接納めることはない
会社などに勤め、厚生年金保険や共済組合に加入している方
※厚生年金保険や共済組合が加入者に代わって国民年金に必要な負担をしているから
第3号被保険者:国民年金の保険料を直接納めることはない
→厚生年金や共済組合に加入している方によって扶養されている配偶者の方
※厚生年金や共済組合が加入者に代わって国民年金に必要な費用を負担しているから

事例のGさんは「民間企業の正社員として働く夫と結婚後、5年間専業主婦」とあります。
元夫は「民間企業の正社員」ですから、厚生年金保険に加入していることになります。
よって第2号被保険者です。

そして、Gさんは結婚していた期間は「専業主婦とあります。

私の感覚では「専業主婦」という言葉そのものが死語になりつつあるので、専業主婦について解説が必要な時代なのかもしれないなと思っています。

この問題を解くうえでの「専業主婦」の定義
厚生年金や共済組合に加入している方によって扶養されている配偶者

よって、Gさんは第3号被保険者だと、事例文は言っています。

すると、Gさんの元夫も、Gさんも、結婚期間中は国民年金の保険料を支払わなくても、支払った体になり納入期間としてカウントされているわけです。

だとするならば、そもそもGさんの元夫とGさんとで、「保険料の納入期間の分割」などという発想自体がありえないのです。

この選択肢が聞いているのは、老齢基礎年金や国民年金の、このような基礎的なことだけです。

選択肢2 ×

問題53の解説で、児童扶養手当について、このような解説を書きました。

児童扶養手当
キーワード:ひとり親家庭
対象:父または母と生計を同じくしていない児童を養育している方

ここでは「児童」としか書いていません。

社会福祉において、児童の定義は、何の限定もなければ、児童福祉法による児童の定義になり、「満18歳に満たない者となります。

選択肢の小学校云々は明らかにズレていますので×ですね。

ただ、厳密にいうと、児童扶養手当」でいう「児童」はさらに限定をつけていて「18歳到達後最初の3月31日までの間にある者(障害児については20歳未満)となっています。要は、高校卒業するまで、という発想ですね。中学を卒業しても就労はできますが、まぁ、今のご時世では高校卒業して就労でしょうから、そこまでは児童扶養手当の対象にしよう、ということです。今はもう大学や専門学校の進学率は高いですが、高校を卒業すればバイト等もしやすくなりますので、今後の法改正で20歳まで延長されることはないでしょうね。

では、カッコ入れになっている「障害児については20歳未満」というのはなぜでしょうか?
これは日本の「障害者」の社会福祉施策上の考え方の大前提を知らないと、よくわからないことになります。

「障害者」の社会福祉施策上の考え方
「障害者」=「就労できない」

もちろん、具体的な障害差Aさんや障害者Bさんが実際に就労できるかどうかという話とは別です。
社会福祉施策上は、障害者は就労ができない、という発想を前提にして、生活保障のための制度が組まれているということです。

就労ができないと給与所得が発生しませんので、給与とは別の形で、制度として生活保障をしてあげなければならない、という発想になります。それが「社会福祉」や「社会保障」という制度の大前提の考え方です。

ただし、障害者に限らず、何らかの事情で「成人」が給与を受け取れない場合には、まずは社会保険で生活保障をし、それでも無理なら税金投入で生活保護になるわけですですよね。
障害者も受給要件の優遇はありますが、考え方は同じです。

障害者の場合、社会保険の年金保険に障害者年金制度があります。この年金制度でも、全国民を対象とする国民年金は、選択肢1の解説にも書きましたが、20歳以上が対象になります。

一方で、「児童」の定義は、社会福祉上は「満18歳に満たない者」(児童福祉法)です。すると、児童期間は様々な手当てによって生活保障が制度上もなされていますが、18歳から20歳までは、障害年金制度の対象にもならず、障害者は就労もできないという発想になると、生活保障がなされないことになってしまいます。

かといって、この期間だけ生活保護対象にするというのもかなり無理があるので、「手当」上は「障害児」に限っては20歳までを「児童」という発想にするのです。

選択肢3 ×

問題53でやりましたが、児童関係の手当ては、児童の養育者が対象であるのが大前提でした。(例外が、障害児福祉手当)

ですから、施設に入所している場合や里親に委託している場合には手当の対象外になります。
とはいえ、母子生活支援施設や保育所(保育園)といった社会福祉施設については、これらを利用しても、母子は生活を共にし、生計も一体ですので、養育者対象とする手当は当然支払われます

ちなみに。

母子生活支援施設についてイメージがわかない人もいるかもしれません。母子世帯用のアパートに世話人としてソーシャルワーカーがいる部屋がある、みたいなイメージですかね。母子生活支援施設は、そのほとんどが外見上はその辺のマンションやアパートと同じです。

選択肢4 ×

労災保険と雇用保険は、他科目と被らないので、この「社会保障」の科目で出やすいのです。「他科目と被らないからやらない」ではなく、他の科目と被らないからこそ、出題されやすいから、しっかりやっておく、という考え方を持って勉強に臨んでください。

さて、雇用保険ですが、厚生労働省のHPでは以下のような説明がなされています。

労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のために、①失業された方や教育訓練を受けられる方等に対して、失業等給付を支給します。また、②失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかるための二事業を行っています。

①のほうが、失業等給付や育児休業給付のことですね。俗にいう失業手当とは失業等給付に含まれます。②にあるのが、雇用安定事業と能力開発事業になります。

選択肢4と選択肢5、両方の文章に「給付」という文字がある用語がみられます。ですので、どちらも、①について聞かれているわけです。(ですから、②の二事業は別の機会で、説明しましょう。)さらに、事例を見ても育児休業という状況ではないことがわかりますから、給付でも失業等給付に変わるものが聞かれています。(ですから、育児休業給付の説明も、別の機会でやりましょう。)

雇用保険の種類
給付関係:失業された方や教育訓練を受けられる方等に対して、失業等給付を支給
(1)失業等給付(2)育児休業給付
雇用保険二事業:失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかる
「育児休業給付」は、2020年(令和2)の改正で、失業等給付から独立させ、「子を養育するために休業した労働者の生活および雇用の安定を図るための給付」として位置づけられています。

それでは、①の(1)にはどのような種類がありますか?

雇用保険の失業等給付の種類
1 求職者給付(※選択肢5)
2 就職促進給付
3 教育訓練給付
4 雇用継続給付(※選択肢4)

ここまで分類してようやく、選択肢に出てくる用語に至りました。
「社会保障」の過去問を見ても、教育訓練給付あたりを狙った問題も出ていますので、これぐらいのところまでは整理しておきたいところです。

さて、今回は選択肢4に関わる雇用継続給付と、選択肢5に関わる求職者給付について見ていきましょう。

雇用継続給付
目的:職業生活の円滑な継続を援助、促進する
高年齢雇用継続給付
介護休業給付

「高年齢雇用継続」「介護休業」という理由でしか、制度上では認められていないわけです。

また、「店主の入院により飲食店は営業を休止」という理由で、雇用の継続に関わる制度からの給付は理屈の上でもちょっと無理があるかな、とは何となくわかると思います。

選択肢5 〇

求職者給付」という用語を知ってさえいれば、即〇をつけられる選択肢だと思います。

求職者給付の代表的なものに失業手当と呼ばれる基本手当があり、多くの人がイメージする失業した場合の雇用保険での給付がこれですね。

選択肢にあるように、「解雇により失業」で「失業の認定」を受けられれば、当然に、求職者給付は受給できます。

正解 5

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