・障害児/者の現金給付がなぜ国家試験で狙われやすいのかを知る。
・児童関係の現金給付について整理する。
問題53 障害児・者に係る現金給付に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 出生時から重度の障害があり、保険料を納めることができなかった障害者は、保険料を追納した場合に限り、障害基礎年金を受給することができる。
2 在宅の重度障害者は、所得にかかわらず特別障害者手当を受給できる。
3 障害厚生年金が支給される場合、労働者災害補償保険の障害補償年金は全額支給停止される。
4 特別児童扶養手当を受給している障害児の父又は母が、児童手当の受給要件を満たす場合には、児童手当を併せて受給できる。
5 障害児福祉手当は、重度障害児の養育者に対し支給される手当である。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
障害児・者の現金給付、要は年金と手当の給付に関する問題は頻出です。
なぜなら、1960年代から社会福祉の対象となってきた「高齢」や「児童」というカテゴリーと異なり、定義上、「障害」という分野には年齢による縛りがないからです。
それゆえ、児童から成人に切り替わる時期や障害が認められる時期をふまえ、いつどのタイミングで社会保険上の対象になるか、よく狙われます。というのも、ソーシャルワーカーとして、それらを知っていないと、障害児・者に対する相談には乗れなくなってしまうからです。
それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。
選択肢1 ×
まず、年金保険の支給事由を確認しましょう。
社会保険で、保険料を払う方だったのが、保険料の支払いを受ける方に変わる契機
年金保険で支給事由となるものは何ですか?
①老齢
②障害
③遺族
つまり、この3つの状態が人生で生じた場合に、それまで保険料を払う側だったものが保険料を支払われる側になるということです。
年金保険の一つである障害年金の発想は、障害状態になったことを契機に、年金は保険料を払う側から保険料が払われる側になります。
ただし、年金を払えるのは労働者に限定されます。労働者じゃなければお金は得られず、そうであれば払えないからです。したがって、年金の支払いは労働できない児童期は免除されるわけです。
では、児童期にすでに障害が認められた場合にはどういう扱いになりますか。この選択肢ではそこが問われています。
さて、まず年金の支払いについて考えましょう。
国民年金の加入は、日本国内に居住して20歳を超える国民年金の被保険者(加入者)となりますので、20才から支給事由があれば年金の支払いがされます。
じゃあ、20歳前に傷害が認められたら、保険料支払いゼロでも支給事由として認められて、保険料が支払われる側になれるかどうかですが、もちろんなれます。
ですから、選択肢1にあるような「追納」は必要ありません。
選択肢2 ×
特別障害者手当ぐらいは、ソーシャルワーカーたるもの知ってなきゃダメだよ、と国家試験が伝えているということですね。
そもそも選択肢1の児童期から障害があった場合には、確かに、保険料を支払わなくても年金はもらえますが、その場合は、障害「基礎」年金だけしかもらえません。(障害「厚生」年金は働いていない以上もらえません。)
障害「基礎」年金は、障害1級で977,125円(月額81,427円)、障害2級で781,700円(月額65,141円)です。これだけじゃ生活は成り立ちません。特に、障害が重度とされる状態であればなおさらです。
そこで、手当が支給されます。
年金:社会保険制度で保険料(+公費)でまかなわれる
手当:全額が税金(=公費)でまかなわれる
この違いの背後にある、行政政策上の考え方についても覚えておきましょう。
税金投入は最後の手段!
→税金投入以外に方法があるなら、そちらを先行
※それでも足りない部分に関して税金投入
すると、重度障害者の生活保障については、年金保険制度だけでは無理という発想の下、「手当」を導入し、穴埋めをするのです。それが、特別障害者手当の発想です。
では、それでも、どうにもならないときはどうしますか?そうなったら、生活保護制度になります。
あらゆるもの含め、使える制度や資源があるなら、そちらを優先
それでも「健康で文化的な最低限度の生活」が成り立たなければ生活保護受給可
生活保護制度は税金政策の中でも最後の最後の砦なので、同じ税金政策でも生活保護は一番最後です。
ということで、
在宅(=「入所施設ではない」ということ)の重度障害者の生活保障について考えてみましょう。
選択肢1にあわせ、児童期から障害が認められた場合にしましょうか
①【社会保険】年金制度
障害「基礎」年金で重度ゆえ1級で年額977,125円(月額81,427円)が支払われます。
ただし、「日常生活において常時特別の介護を必要とする」場合に、この額では生活は成り立ちません。
↓
②【税金政策】特別障害者手当
重度の障害ゆえに「日常生活において常時特別の介護を必要とする」場合には、「特別障害者」という扱いで、月額で27,350円が支払われます。
つまりこの時点で、
が月額で支払われます。この額を多いと見るか少ないと見るかは人によるでしょうね。
特別障害者手当は税金政策ゆえ、他に手段がなければ、という条件付で支払われるのが前提です。
すると、所得があるのであれば、そちらが先行します。
したがって、所得が基準より多ければ、この手当が税金政策である以上、もらえない場合もありうるということです。
選択肢3 ×
これは「労災保険」について出題した問題52とセットで出題していますね。
問題52では問われていませんでしたが、「労災保険」には、年金制度があります。
・傷病補償年金
・障害補償年金
・遺族補償年金
障害厚生年金と障害補償年金(労災年金)を受け取る場合、労災年金の額は減額され支給されることになっています。しかし、障害厚生年金はそのまま全額支給されることになります。
ただし、この減額に当たっては、調整された労災年金の額と厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額より低くならないように考慮されています。
端的に書かれていますね。
選択肢4 〇
この選択肢は見ただけで一発で〇にしたいところです。なぜなら、しょっちゅう過去問で問われている基本的な内容だからです。
児童に関しては、社会福祉の制度の中でも、特段に手厚いです。ですから、条件さえ満たせばすべて併給できるのは当然です。この4つはしっかり押さえましょう。
大前提:条件を満たせば、すべて併給可能!
選択肢5 ×(△でも可)
これはわからなかった人が多いかもしれません。
選択肢4であげた児童関係の手当てのうち、「障害児福祉手当」以外はすべて養育者にあたる人が対象になっています。ところが、この障害児福祉手当だけは、対象が障害児本人なのです。
これは、選択肢2の「特別障害者手当」と「障害児福祉手当」は同じ考え方によるものとして押さえておければいいかな、と思います。この二つの手当ては、「重度とされる障害児・者の『福祉の向上』」が目的とされているのです。生活を保障という発想ではないのです。
このへん、話し出すと長くなりそうなので、これぐらいにしますが。そういう背景で、「障害児福祉手当」だけは、児童だから養育者が対象ではなく、障害児本人が対象です。
正解 4